研究課題/領域番号 |
24720111
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研究機関 | ノートルダム清心女子大学 |
研究代表者 |
藤川 玲満 ノートルダム清心女子大学, 文学部, 准教授 (20509674)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 日本文学 / 近世文学 / 出版 / 秋里籬島 |
研究実績の概要 |
本研究は、文運東漸後、近世中後期の上方において文学が形成される在り方を、秋里籬島を中心として、作者と出版書肆の動態・相関から解明することを目的としている。本年度は、前年度まで著作・作者・書肆の相互関係を軸に遂行してきた作品・文壇・出版界に関する諸分析を基とし、籬島文学の全体像について包括的な検証を行った。具体的には、1点目に籬島の閲歴、すなわち著作の文学的基盤となる文壇との接点や交遊、執筆活動を支えた書肆との関係等の周辺環境も含む活動の全貌の解明、2点目に籬島作品の形成の実態とそこに込められた作者籬島の知識的な基盤と文化的な姿勢、そして作品の出版の様相の解明を視角とした。その成果は、1点目に関しては、籬島の活動の軌跡とその意義が同時代の文壇情勢に連なるものであることを、周辺の文芸圏にわたる考察によって示した。また出版について、主板元と関与する複数の書肆の相互の役割と各々にとっての意義・利点という観点で多角的に捉えた。2点目に関しては、籬島の著述の知識的な基盤について具体的な拠り所とその傾向・特質を明らかにした上で、先行書物の活用のあり方から、領域を越えて通底する作品の構築手法を捉えた。さらに、このことが同時代の文化社会の動向を見据えて出版書肆の働きと相俟って行われていることを示した。この研究成果は、制作環境の相関と典拠の解明をもととして、作者と書肆の意識、そして作品を生み出し、受容した文化界・出版界の動向から書物の枠組みと本質を見極めることを試みたものであり、実証性をもって時代の流行・文化現象の発生とその影響を再考した意義があると考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究目的としてきた、文運東漸を経た上方においてこの時期に特質的な文学が生成された在り方を明らかにするということについて、制作者の相互連関の具体像とその連鎖的な動態、作者の文化的基盤の一端を総体して捉えるに至っている。このことは、秋里籬島の文学を、小説・俳諧をはじめとする文学の諸領域に渉り、隣接分野や出版史にも繋がる文化史的な問題として考証した結果であり、また、その作品が文壇の潮流や社会状況に根ざして創出されていたことも跡付けられた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、籬島作品の近世小説史の展開との繋がりについて、さらに委細な調査・分析を加えて跡付けていくことと、文学活動に関する調査を継続して遂行し、文壇との接点について考察を深めることにより、籬島文学の全体像をさらに明確なものとすることに努める。その上で、この時期の上方作者と出版界、文学形成のあり方を再考し、総括する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究の遂行途中において、秋里籬島の文学活動に関連して、新たに検討を加えるべき事跡が存在することが分かった。この件の調査研究が平成26年度末の時点で未完了であるが、本研究課題にとって重要な事項であるため、これを次年度に行い、平成26年度までに得られた成果とあわせて研究を総括することとしたため、未使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
上記の、籬島の文学活動に関連する新たな検討事項の未完了分の調査研究と総括を次年度に行うこととし、未使用額はその経費に充てる計画である。
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