研究課題/領域番号 |
24720114
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研究機関 | 亜細亜大学短期大学部 |
研究代表者 |
伊藤 剣 亜細亜大学短期大学部, その他部局等, 特任講師 (70453991)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 出雲国風土記 / 『出雲風土記抄』 |
研究概要 |
日御碕本『出雲国風土記』と『出雲風土記抄』の風土記本文の比較検討を行った。日御碕本は寛永11(1634)年に出雲国の日御碕神社に奉納された写本であり、『出雲風土記抄』は天和3(1683)年に成立した岸崎時照(出雲国松江藩士)による『出雲国風土記』の注釈書である。日御碕本と『出雲風土記抄』は別々の系統の風土記本文を伝えているとされるが、本研究の目的は、両者の関係性の深さを証明する点にある。平成24年度は次の3点に絞って研究を進めた。1、「出雲国で確認されている『出雲国風土記』の諸写本の調査」、2、「『出雲風土記抄』の写本の調査」、3、「日御碕本(系統)の『出雲国風土記』と『出雲風土記抄』の比較調査」。以下、順次研究実績の概要を記す。 1、出雲国内に残される写本に対する日御碕本の影響力の大きさを確認し、日御碕本を祖とする写本群に限って特定の現象が見られるという調査結果を得た。 2、『出雲風土記抄』は写本で伝えられるものであり、写本間で風土記本文に異同も認められる。しかし、その異同も本研究の大勢に影響を与えることはなさそうであり、最善本とされる桑原家本を日御碕本との比較対象に据えることに問題はないという見通しを得た。 3、1で記した日御碕本を祖とする出雲国内の写本群に見られる現象が『出雲風土記抄』の風土記本文にも認められることが明らかになった。これにより、『出雲風土記抄』は日御碕本の影響下に置かれていることが確認された。 なお、上記の成果は、平成25年度中に論文として公にする予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度は次の3点を行う計画であった。1、「出雲国で確認されている『出雲国風土記』の諸写本の調査」、2、「『出雲風土記抄』の写本の調査」、3、「日御碕本(系統)の『出雲国風土記』と『出雲風土記抄』の比較調査」。以下、順次達成度の報告をする。 1、当初は中島本(文化14(1817)年に書写されたもの)・木村本・光真本(何れも島根県立図書館蔵)、布施村古川本(島根大学図書館蔵)の調査をする予定であったが、布施村古川本の調査は見送った。しかし、かわりに中島本(文化3(1806)年に書写されたもの。島根県立図書館で電子データを閲覧)と郷原氏本(島根県古代文化センターで写真を閲覧)の調査ができた。何れも日御碕本の影響力が大きい写本であるという調査結果を得、出雲国内での日御碕本の存在感の大きさを確認できた。 2、当初は在京のまま閲覧できる桑原本・竹柏園本・倉野本『出雲国風土記』に書き込まれた『出雲風土記抄』の調査をする予定であったが、この内、後二者の調査は見送った。しかし、かわりに勝部氏本・島根県立古代出雲歴史博物館蔵本・横山本(何れも島根県古代文化センターで写真を閲覧)の調査ができた。横山本は、平成25年度に調査する予定だったものである。何れの写本も『出雲風土記抄』が日御碕本の影響下にあるという研究業績の概要に記した内容を裏付ける調査結果を得た。 3、研究実績の概要に記したとおりであり、本研究の方向性が妥当であることを確認した。
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今後の研究の推進方策 |
『出雲国風土記』『出雲風土記抄』の写本調査と、本研究の総括を行う。 写本調査では、島根県古代文化センターと島根県立図書館に赴き、閲覧が可能な写本を調査する。両機関の所在地は近接している上に、休館日も異なるため、効率的な調査を行うことが期待できる。写本の調査は、大学での業務や実地調査前後の検討期間を考慮して、8月下旬と2月下旬の2回を考えている。両機関を合わせると70以上の『出雲国風土記』や『『出雲風土記抄』の写本の風土記本文を確認できるので、それぞれの訪問時に1週間ほど滞在して調査をする予定である。こうした調査により、日御碕本を祖とする写本群の特徴や日御碕本と『出雲風土記抄』の近似性を見出した平成24年度の成果の精度を高めていく計画である。 また、本研究の最終的な総括は平成25年度の後半にすることになると考えている。総括では次の4点を行うつもりである。1、「実証的な説明による、日御碕本と出雲国内に現存する『出雲国風土記』の写本の親縁性の指摘」、2、「出雲国松江藩士である岸崎時照は日御碕本(系統)の『出雲国風土記』しか見ることができなかった可能性が高いという、当時の環境の指摘」、3、「『出雲風土記抄』の風土記本文が日御碕本の影響下に置かれているのではないかという見解の提示」、4、「諸本の新たな系統図(=日御碕本・出雲風土記抄は同じ系統)の提示」。 なお、平成25年度上代文学会秋季大会のシンポジウム(11月16日の予定)でパネリストを務めることが決まっている。本研究の成果の一端は、その場でも示す予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究では、島根県に足を運んで写本の調査をすることになる。平成24年度の島根県での調査期間は8月30日―9月2日(島根県立図書館)、2月14日―2月18日(島根県古代文化センター)であったが、閲覧可能な写本の分量に照らすと、現地での滞在期間を延ばす必要性を実感した。そのため、平成25年度は調査期間を延ばす形に変更する予定である。費目別収支状況等「次年度使用額(B-A)」欄が54,012円となったのは、この点を考慮し、平成24年度分の支出を平成25年度分の旅費にあてるためである。旅費の確保を優先するために、物品費、人件費・謝金、その他の支出に関しても柔軟に対応していきたい。
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