『出雲国風土記』の写本には二つの系統があるとされている。本研究で調査研究の対象にした日御碕本『出雲国風土記』と『出雲風土記抄』は、別々の系統だと説明される。しかし、この点に疑義を呈するのが本研究の課題である。 『出雲風土記抄』は『出雲国風土記』の注釈書であり、その特徴は風土記本文に対し傍訓や送り仮名などを付すことで訓読が試みられている点にある。ただし、『出雲国風土記』本文の全体にわたり訓を施した最初の写本は日御碕本である。平成25年度は、前年度に引き続き、訓読という点に重点を置いて日御碕本と『出雲風土記抄』の関係性を検討した。両者を比較してみると、漢字の特殊な訓み方を共有しているばかりでなく、『出雲風土記抄』が日御碕本の訓にもとづいて風土記本文を作っている例が存在していた。したがって、日御碕本と『出雲風土記抄』は別々の系統の風土記本文を伝えているのではなく、実は近い関係にあるとのではないかという調査研究結果を得た。 なお、上記の成果は2本の論文にまとめた(「日御碕本『出雲国風土記』の訓読が作った風土記本文」『早稲田大学日本古典籍研究所年報 』7、早稲田大学プロジェクト研究所日本古典籍研究所、2014年3月)、「日御碕本『出雲国風土記』から『出雲風土記抄』へ――捨仮名の本文化に見る写本系統の再検討――」『上代文学』112、上代文学会、2014年4月)。また、日御碕本と『出雲風土記抄』を視野に入れた『出雲国風土記』写本の資料紹介が、平成26年度内に公にされる予定である(「文化三年写中島家本『出雲国風土記』について」『嵐義人先生古稀記念 文化史史料考証』アーツアンドクラフツ、2014年7月刊行予定)。
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