研究課題/領域番号 |
24720125
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 香川大学 |
研究代表者 |
田多良 俊樹 香川大学, 経済学部, 准教授 (40510467)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 国際研究者交流・アイルランド / 現代アイルランド小説 / アイルランド大飢饉 / James Joyce / Louis J. Walsh / 民族主義 / 帝国主義 / 記憶 |
研究概要 |
本年度は、本研究の理論的土台を確立するために、大飢饉と現代アイルランド史に関する研究資料の蒐集を行った。特に、平成24年9月にダブリンのアイルランド国立図書館における資料収集時に、Louis J. Walsh の全著作を入手できたことの意義は大きい。Walshの作品は我が国の研究機関には所蔵されておらず、海外の先行研究でもほとんど扱われていない。しかし、Walshは、James Joyceと同じ時期に同じ大学で学んでおり、民族主義的な観点から大飢饉の悲劇を小説化している重要な作家である。両者を比較することで、大飢饉小説研究に新たな成果を加えることができると思われる。 翌10月からは、蒐集した資料の分析を進め、大飢饉に関する歴史学・社会学・経済学の知見を応用して、現代アイルランド小説における大飢饉表象を考察する方法論を確立した。これに基づき、Walshの小説The Next Timeと、Joyceの小説 Ulyssesにおける大飢饉表象を比較した。その結果、前者は、大飢饉を民族主義的に表象することでその記憶を後世に語り継ぐことを意図しており、後者は、大飢饉を民族主義的に捉えながらも、大飢饉を契機に先鋭化するイギリス帝国主義とアイルランド民族主義の対立を乗り越えようとしていることを明らかにした。 平成25年3月、この研究成果を、国際学会 "Global Legacies of the Great Irish Famine"にて口頭発表した。この学会には、文学だけでなく、歴史学、社会学、経済学、人口統計学、文化地理学を専門とする欧米の研究者が集結していた。そのため、彼らと活発に意見交換することで、学際的な知見を多く得ることがでた。また、数名の研究者から、本研究の今後の展開に協力を求めることもできた。これらの意味で、この研究発表は、非常に有益かつ意義のあるものとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まず、資料の蒐集・分析は順調に進んでいる。次に、上述の国際学会における発表は、本研究にとって有意義な知見と、海外の多くの大飢饉研究者との継続的交流をもたらしたという意味で、本研究を計画以上に進展させたと言える。 一方で、国際学会でJoyceとWalshについて口頭発表したため、当初の計画では本年度に取り上げる予定であったElizabeth Bowen と Liam O'Flaherty については、研究がやや遅れている。しかしながら、両作家に関する資料は揃っているし、国際学会終了直後から分析を開始しているため、次年度中には研究成果を発表することは可能と思われる。 以上のように、「当初の計画以上に進展している」面と、「やや遅れている」部分があるので、総合的に見て、本研究の現在までの達成度は「おおむね順調に進展している」と評価される。
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今後の研究の推進方策 |
研究の理論的土台の確立は果たせたので、今後の研究としては、個別作家の作品分析を進めていく。そのため、個別作家に関する先行研究の蒐集・分析を継続的に行う。なお、大飢饉に関する新たな資料が発見された場合は、これを蒐集する。 個別作家の作品分析として、まず、上述の国際学会で発表したJoyceとWalshに関する比較考察を論文化する。当該学会における研究発表は、査読を経て、論文集として刊行される予定である。この論文集に掲載されることを目指して、発表原稿の論文化を平成25年4月から5月にかけて、入念に行う。 次に、本来は本年度4月からの研究対象であったBowenとO'Flahertyについての研究を次のように遂行する。まず、6月から8月にかけてBowenに関する研究を遂行し、これを9月1日締切の『英文学研究』(日本英文学会機関誌)に投稿する。O'Flahertyに関しては、9月から11月にかけて考察を行い、翌年1月締切の学内紀要に投稿する。 これに伴い、平成25年度の当初計画では扱う予定であったFlank O'ConnorとWalter Mackenに関する研究の遂行時期を変更する。O'Connorに関する研究を平成25年12月から平成26年2月まで行い、Mackenについては同年3月から考察を開始し継続課題とする。 なお、これらの研究を推進するにあたって、University College Dublin教授Margaret Kelleher氏に助言を求める予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度使用額(B-A)の180,000円は、上述の国際学会における研究発表に必要な出張経費として、前倒し支払い請求をしたものであり、すでに執行済みである。 これに伴い、平成25年度は、直接経費410,000円を請求予定である。平成25年度中に遂行する個別作家の作品研究に必要な資料の購入のために、設備備品費として150,000円、Kelleher教授と意見交換を行うために旅費として150,000円、これに伴う英語論文校閲・専門的知識の提供に対する人件費・謝金として80,000円、その他30,000円の使用を計画している。
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