研究課題/領域番号 |
24720131
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 千葉工業大学 |
研究代表者 |
三村 尚央 千葉工業大学, 工学部, 助教 (90514795)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | カズオ・イシグロ / 英米文学 / イギリス文学 / 国際主義 / シティズンシップ / ユートピア / コスモポリタニズム / 多文化主義 |
研究概要 |
本研究課題の目的は、1950年代以降のイギリス文学の中で活発になった作家の「国際性(internationality)」についての言説をイギリス文化の一環として考察することである。本研究では、国際性は一般的に考えられるような国を超越した万国共通の理念ではなく、各国の国民性を強く反映するものであるという仮定に基づき分析を行うことで、イギリス独自の文化としての作家の「国際性」の特徴を明らかにすることを目指している。 本年度はイギリス文化としての作家の国際性に大きく関わると思われる分野として、移民政策と教育政策についての資料や概念の整理を行い今後の研究のための理論的な土台を整えた。その結果明確になったことは、国際化という現象は共同体や国家による集団的な政策および管理を後ろ盾としなければ成立しえないということであった。 「移民」や「教育」の分野から国家という組織の変遷を追ったエマニュエル・トッドや、ジェンダーの問題を国家の問題と結びつけるジュディス・バトラーの議論から明確になってきたことは、国際化という運動は不可避的にマイノリティの包摂と排除を含んでいるということであった。つまり国際化の運動は、個人の思想や活動と、共同体の利害関係や相互の責任をめぐる線引き(limiting)の問題であるとも言いかえられる。 また本年度はイギリスにおける移民政策と教育政策の関わりの変遷についての調査も進んだ。1950年代から70年代のイギリスでは人種差別が明確に教育格差と結びついていたが、1980年代以降には総合教育化の影響もあって、そうした格差は解消されるのでなく、より細分化され再編成されていった。同じ移民でも西インド系と中国系で大学進学率などの状況が大きく異なるなど、移民という単一の観点からは見えにくいものとなっていることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の研究計画では本年度は移民政策についての先行研究の整理と理論的な土台の構築を行う予定であった。実際には当初の予定にはなかった教育制度の変遷の調査も行うことになったが、イギリスの移民政策についての調査はほぼ予定通り進展した。 だが今後に先送りされてしまった課題として、移民出身の作家による作品の分析は不十分なままに終わってしまったことがあげられる。
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今後の研究の推進方策 |
25年度以降は、イギリス国内で移民が急増した1950年代以降に彼らに対するイギリス人たちの姿勢がどのように変遷したかを教育制度に焦点を絞って行う。シティズンシップ教育は2002年から必修科目として制定されたが、それ以前からイギリス人として備えておくべき人格の目標を定めてきたと考えられる。本研究では特に移民や外国人に対する態度を中心に調査を行う予定である。 また、24年度に十分に行えなかった移民出身の作家を含め、イギリスとその外部との関わりという観点からイギリス作家たちの位置づけを見直してゆく計画である。現在の予定では両者の文化を行き来してきたサム・セルボンやドリス・レッシング、モニカ・アリなどを分析と考察の対象とする。移民や教育についての政策を分析するだけでなく、それらの目標や理念が文化的産物の具体例としての小説にはどのような形で描かれているかを考察して両者を架橋することが本研究の今後の目標である。
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次年度の研究費の使用計画 |
25年度以降は研究計画に従って国内での資料収集および整理を中心に行う予定で研究費も主に資料代や国内学会での成果発表に使用する予定であるが、24年度での調査の結果、今後関連する国際学会に参加したりイギリス国内での資料の収集を行ったりする可能性も出てきた。必要な場合は研究費を調整してこちらに充当する予定である。
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