本研究課題の目的は、1950年代以降のイギリス文学の中で活発になった作家の「国際性(internationality)」についての言説をイギリス文化の一環として考察することである。平成24年度はイギリスの移民政策についての先行研究の整理をおこなった。イギリス本国への移民が増加したことへの対応として、国籍法の改定などには「どこまでがイギリス人か」という国内向けの枠組みを策定することが頻繁に検討されてきた。本年度の活動によって明らかになったのは、「国際化」という現象は決して個人の素質や努力だけによって達成されるのではなく、共同体や国家による集団的な政策および管理が後ろ盾として必要だということだった。 平成25年度はイギリスにおける「シティズンシップ」の現状についての調査をおこなった。グローバリズムの影響により、作家が自らを「国際作家」と呼ぶケースがニュースとなる一方、大多数の移民のなかでイギリス市民として帰化できるのは特殊な技能や経済力を持ったわずか3%であることが明らかになった。そうした大多数を排除して一部のものに開かれた状況を研究者たちは「軽いシティズンシップ」(クリスチャン・ヨプケ)、道具主義(アイワ・オング)などと指摘している。 平成26年度は2001年から正式に始まった「シティズンシップ教育」など教育制度の中での「シティズンシップ」概念の変遷についての調査をおこなった。その結果明らかになったのは、1950年代以降の多文化化への対応として従来は他者への「寛容(tolerance)」が強調されていたのに対し、1980年代以降は共同体やイギリス社会に積極的に関わることのできる「アクティブ・シティズンシップ」が求められるようになったということである。つまり移民も含めた市民たちは共同体に守られるだけの受動的存在ではなく、積極的な能動的存在となることが求められているのである。
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