研究課題/領域番号 |
24720132
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 共立女子大学 |
研究代表者 |
浦野 郁 共立女子大学, 文芸学部, 講師 (80612746)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 活人画 / イギリス文学 / イギリス文化 / ヴィクトリア朝 / 視覚文化 |
研究概要 |
本研究は、19世紀半ばから20世紀初頭にかけて流行した「活人画(tableau vivant)」に関する歴史・文化研究的調査を行った上で、活人画が登場する同時期の文学作品のテクスト分析を試み、人々の視覚意識の変遷を探ることを目的とするものである。 初年度は主に活人画流行の実態についての歴史的資料を収集する計画であり、昨夏3週間のイギリス滞在中に、数多くの一次資料を手に入れることが出来た。大英図書館では、当時の新聞から活人画についての記事を数多く複写し、上流階級の娯楽であった活人画が中産階級に広まっていった過程、流行の背景にある文化的意義、そして写真技術の発達が活人画にどのように影響したかなどを、時系列に沿って概観することが可能になった。大英図書館では日本国内では入手の難しい研究書や、当時数多く出版された家庭向けの娯楽指南書の解題も行い、活人画が初めから持っていた「啓蒙」と「娯楽」という二つの目的が個別に発展していった結果として、当時の写真家が追及したような芸術性の高い活人画と、後のストリップショーにも繋がる大衆的娯楽としての活人画に分岐していった道筋が見えてきた。 また、ヴィクトリア&アルバート美術館においては、ヴィクトリア朝期の写真を専門とするキュレーターと知り合い、ジュリア・マーガレット・キャメロン及び、現在ではあまり知られていない写真家によって撮影された活人画の画像資料にアクセスすることが出来た。イギリス滞在終了後もこのキュレーターと情報交換を続け、写真史のジャンルにおいて書かれた文献に接することで、基本的にリアリズムを追求する写真という媒体において、活人画がいかに特異な位置付けをなされているかを知ることが出来た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究初年度は日本国内ではアクセスすることの出来ない情報及び一次資料を数多く入手し、活人画について歴史的な事実を知ると共に、有効な時代区分やジャンル分けの可能性を模索することが出来た。滞在期間が限られていたため、ロンドン以外の都市に所蔵されている資料にアクセスすることは出来なかったが、活人画流行の実態を概観する上では十分な量の資料が集まっている。申請段階で考えていた、一般人が所有する画像資料(主に写真)の収集は現時点では行っていないが、これは、新聞記事が報じる上流家庭における活人画イベントの挿絵や写真、中流家庭向け娯楽指南書の挿絵などから、私的な場における活人画実践の様子についての視覚的な情報を十分に得ることが出来たためである。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の進め方については、申請時の計画から大きな変更はない。平成25年度は、活人画を直接的・間接的に扱った文学作品を数多く収集する。初年度に収集した歴史的資料との比較により、文学における活人画表象の特性を探ると共に、写真の誕生など視覚文化に大きな変化があった前後の時期で、その描かれ方に違いが見られるかを検証する。また、活人画への直接的言及がある作品と、その影響が暗示的・比喩的に示されている作品を類別し、こうした差異の文化的背景をも明らかにする。平成26年度は、24年度及び25年度の研究成果を統合し、視覚文化の大きな流れの中で活人画を適切に位置づけ、人々の視覚意識にもたらされた変化をどのように読み取ることが出来るかまとめる。現代社会における関連事象であるコスチュームプレイにも触れ、視覚文化を考える上での今後の課題を探る。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度は、活人画を直接的・間接的に扱った文学作品を数多く収集する。活人画を直接的に扱った文学作品としてよく知られるものに、ゲーテの『親和力』やウォートンの『歓楽の家』があるが、このように現在でも一般に出回っている作品は多くはない。ヴィクトリア朝期に出版され、現在は絶版となっている作品を数多く収集する必要があり、この目的のために再び大英図書館での文献探索と複写を行いたいと考えている。そのための旅費及び、関連文献の購入費が、平成25年度の支出の主なものになる予定である。また、ここまでの研究成果を発表するため国内外で関連学会に参加したいと考えており、そのための経費も支出に組み込まれる予定である。
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