研究課題/領域番号 |
24720136
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研究機関 | 明治学院大学 |
研究代表者 |
貞廣 真紀 明治学院大学, 文学部, 講師 (80614974)
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キーワード | トランスナショナリズム / トランスアトランティック / ハーマン・メルヴィル / アメリカ / 詩 / 文学史 |
研究概要 |
H25年度に行った口頭発表、論文発表は以下の通りである。日本メルヴィル学会第二回全国大会にて、ハーマン・メルヴィル後期詩作品に見られる環大西洋的想像力が当時アメリカの批評空間において趨勢であったナショナリズムの形成と連動している点を論じた(「メルヴィル晩年のスタイル」)。本発表の内容は、メルヴィル学会の参加者および東京大学教授・柴田元幸教授からいただいたコメントに基づいて内容を修正した後、東京大学現代文芸論研究室論集『れにくさ』第5号に投稿、掲載された(「John Marr and Other Sailorsにおける匿名詩人のナショナリズム」)。また、日本ウィリアム・フォークナー協会第十六回全国大会のシンポジウム「メルヴィルとフォークナー」において、ハーマン・メルヴィルの南北戦争と国家意識が、戦後トランスナショナルな射程を持つ点について論じた(「南北戦争を語ることについて」)。本発表の内容については、研究誌『フォークナー』(松柏社)に投稿を行った(掲載はH26年度)。いずれの場合も、未出版草稿ないし日本では研究がまだ稀少な資料を扱い、従来注目されてこなかった19世紀後半のアメリカのナショナリズムとアメリカ詩文化の関連を再構成する作業に貢献している。 また、ハーバード大学ホートン・ライブラリーにてハーマン・メルヴィル未出版草稿Weeds and Wildingsを調査し、メルヴィル最晩年の関心の一つにカリブ海をめぐる覇権争いがあった点を確認した。さらに、ニューヨーク州立大学バッファロー校のクリステン・ミラー教授と面談を設けることによって、これまで行ってきたトランスアトランティックをめぐる研究の方向性について指導を得る事ができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は南北戦争以降のアメリカ文化における「詩」の概念の重要性と、それに支えられたアメリカの文化的ナショナリズムを、トランス・アトランティックとトランス・パシフィックの観点から捉えなおし、グローバルマッピングにおけるアメリカの位置の解明を行う試みであるが、当初計画していた2つの題目のうち、1)環太西洋文化交流と「アメリカ詩」の誕生については、H25年度の口頭発表、研究論文の発表および口頭発表プロポーザルの投稿(結果、海外口頭発表2件が受理された。発表はH26年度)をもって、計画していた以上の成果を残すことができた。具体的には、計画書に提示した(1) Stedmanが訴える「ニューアメリカニズム」の概念 (2) Ralph Waldo Emerson及びWalt Whitmanが掲げた国家像と(1)の共通点と相違点(3)同時代南部詩人William Gilmore Simmsによる国家像と(1)の共通点と相違点(4)StedmanによるPoe全集の編纂の意義とEdgar Allan Poeの重要性(5)Stedmanによるバラッドジャンルの重要性の強調とリージョナリズム (6) 世紀末ニューヨークにおけるオランダ・リバイバル (7) 90年代にStedmanやMelvilleによって書かれた、カリブ海をテーマにした詩の意義の7項目について、ほぼ網羅的に考察を行うことができている。これらの研究によって、従来等閑視されてきた詩文化におけるグローバル・ターン、すなわち「アメリカ」像の多層性を明らかにすることが可能になった。
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今後の研究の推進方策 |
H25年度から継続して行ってきた環大西洋研究の成果を発表する。口頭発表を通じて専門の学者との意見交換を行い(5月にトロント大学、7月にポーツマス大学で口頭発表を予定)、さらに論文の出版を行う(12月出版の日本メルヴィル学会会報への投稿を予定)。 同時に、H26年度は本研究のもう一つのテーマである超太平洋交流についても更に研究を進め、超大西洋文化交流において形成される時空間を複層性を明らかにする。すでにH25年度までに、東洋哲学を西洋に移入したイギリス批評についての調査を行っており、その結果を踏まえて、H26年度はこうしたイギリスの批評家の活動によってアジア宗教哲学やグノスティシズムの流行が補強されている点と、そこで形成される「アメリカの精神」が超大西洋と超太平洋文化に支えられていた点をまとめ、口頭発表、論文発表につなげる。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初の計画では初年度およびH25年度の夏にかけて渡航調査を行い、また、ニューヨーク州立大学にてクリステン・ミラー教授と面談を行うことになっていたが、ミラー教授自身の海外研究と期間が重なったことで、面談を行うことが困難になった。そこで、渡航及び面談の時期をH25年度末にずらし、その成果をもとにH26年度に成果の海外発表を行うことになった。 H26年度7月ポーツマスでの口頭発表に私用する渡航費を使用する。また、本研究は未出版資料、雑誌アーカイブを使用するため、H25年度から継続して、図書取り寄せ、複写、図書購入:図書を随時購入し、最先端の超太平洋および超大西洋交易研究および19世紀アメリカ詩研究をフォローしたい。
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