研究課題/領域番号 |
24720138
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
大沼 由布 同志社大学, 文学部, 助教 (10546667)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 中世英文学 / 西洋古典 / 驚異 |
研究概要 |
本研究は、中世ヨーロッパの人々が、西洋古典の影響を受けつつ、自らの理解の範疇外にある出来事をいかに記述してきたかを分析し、そこから当時の人々の認識や精神性を解明しようとするものである。本年度は、超自然現象の中でも、「驚異」がどの様に認識されていたかを中心に調べた。 まず、「驚異」の一例として、アマゾン女族を取り上げ、そのイメージが古代から中世にかけてどの様に変化し、中世の驚異認識の一端をどの様に示しているかを、他者との接触による知識や認識の形成という点と絡めて分析した。学術的な意義や重要性としては、研究が進んでいないアマゾン女族の中世でのイメージを紹介した事や、時間的・地理的他者双方の影響を考慮にいれた事があげられるが、それ以外に実践面として、成果を主に理系の研究者の前で発表した為、専門用語を避け、なるべく万人に分かる様まとめた事で、限られた範囲だけに開かれがちな研究を、より多くの者へ発信していける道が開けた事も挙げられる。 それ以外に、12世紀の地誌をとりあげ、一見驚異に対して相対的な視点をもっているかのような記述が含まれるが、実際には自分達の優位性を示す為にその様な記述をしていると指摘した。これにより、同様の記述でも、作品全体の文脈により、大きく意図が異なる事を示し、今後の驚異研究の注意点を示す事ができた。 また、2011年に学術雑誌に応募した論文が採択され、2012年末に刊行された。西洋中世の驚異認識が相対的だという事は以前から数人の海外研究者による指摘がなされていたが、本論ではその事を、古典の例からの変遷を分析し、具体例を持って示すと共に、それが物体と性質とを分けて考えるというより高度な認識力の現れだという新たな分析を示した。国内外の英文学者、中世学者は勿論の事、人類学者、社会学者等にも抜刷を送付し、有益な示唆を受ける事ができたので、今後の研究に活かしていきたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では、ティルベリのゲルウァシウスの『皇帝の閑暇』、ギラルドゥス・カンブレンシスの『アイルランド地誌』の二作品について、記述対象、記述内容、記述態度により分類し、類例も含めて比較検討する予定であった。実際成果を発表したのは『アイルランド地誌』についてのみだが、『皇帝の閑暇』は以前の研究でも扱っていたため、蓄積があり、実際の整理状況としては大差はない。どちらも、ある程度見えてくるものはあるが、まだ引き続き分析が必要と考えられる。また、ヴァチカン図書館に、ゲルウァシウス本人によると推定されている多数の書入れをもつ『皇帝の閑暇』の写本(Vatican City, Biblioteca apostolica vaticana, Cod. Vat. lat. 933)があるため、それの調査を予定していたが、こちらも11月に行うことができた。 平成23年に行った学会発表をまとめて海外の学術雑誌へ投稿する予定でいたが、それは果たせなかった。しかし、山中由里子・国立民族学博物館準教授の科研基盤研究「中東およびヨーロッパにおける驚異譚の比較文学的研究」の分担研究員となった関係で、当初の予定を越える発表・論文を発信する機会に恵まれ、こちらの研究と本研究は相互関係が強いため、その意味で、計画以上に進展した部分もあり、総合すると、概ね順調といってよいかと思われる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の推進方策としては、2013年度はスコラ哲学について調べ、2014年には特にスコラ哲学と奇跡、という観点から、超自然認識に与えた影響について調べたいと考えている。スコラ哲学に関しては、現在までの蓄積があまりない部分であることもあり、無理にすぐに成果を発表しようとはせず、時間をかけて調査する(当初の計画でも2年かける予定であった)。 それに加え、2013年には、2012年に行った二つの海外発表を論文にまとめ、それぞれ論文集の一部とすべく投稿予定であり、さらに、2012年の計画で果たせなかった以前の研究発表を論文に直すという持ち越し課題もあり、本研究外(全く関係がないわけでは勿論ないが)の研究論文、書評、翻訳の仕事等も入っているため、かなり過密スケジュールになると考えられる。明確な締め切りが設定されていない、持ち越し課題やスコラ学の調査がある程度優先順位が下がってしまうのは避けられないと思うが、草稿の作成や、研究に必要とされる著作家、作品に目を通して主張を理解することなど、少なくとも土台は作っておけるようにしたい。 また、2012年度におこなった驚異の分析も、それ以外の超自然現象の認識と併せることによってより深めることができると思うので、優先順位や集中度は下がるものの、今後も続けていきたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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