研究課題/領域番号 |
24720138
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
大沼 由布 同志社大学, 文学部, 准教授 (10546667)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 中世英文学 / 西洋古典 / 驚異 |
研究実績の概要 |
本研究は、中世ヨーロッパの人々が、西洋古典の影響を受けつつ、自分たちの理解の範疇外にある出来事をいかに記述してきたかを分析し、そこから当時の人々の認識や精神性を解明しようとするものである。 本年度の主な研究対象は、『東方の驚異』と呼ばれる古英語及びラテン語の散文である。この作品は、現存する写本3点全てにおいて、豊富に挿絵がつけられているのが特徴であり、美術史的側面から取り上げられることはあっても、従来文学として取り上げられることは少なかった。9月にロンドン大学で行われた国際学会で発表を行い、この文献が、超自然現象を当時の人が理解するための一助として、現在でいう図鑑のような役割を果たすものとして編纂された可能性を、現存する写本および先行文献との比較により論じた。この発表を基に論文を執筆し、学術雑誌Poetica(査読あり)へ投稿し、採録が決定した(2015年6月に刊行予定)。従来注目されることの少なかったこの作品の新たな役割を論じ、当時の人々の超自然現象の受け取り方の一考察としたことに異議及び重要性が認められる。 なお、これ以外に、前年度の研究成果の一部である、古代から中世のアマゾン族のイメージの変遷についてまとめた論文が、論文集に収められ、年度初めに刊行された。研究者だけでなく、一般読者をも対象にした書籍に収録されたため、より幅広い層へ研究成果を還元することができたといえる。また、本研究と関係も深く、分担研究者として関わった、中東とヨーロッパの驚異譚の比較研究に関する科学研究費プロジェクトの結果をまとめた書籍へも寄稿し、現在編集の最終段階にある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、当初の予定では、昨年度に引き続き、超自然現象を理解する際のスコラ学の関わりを、特に「奇跡」の理解に重点をおいて追求する予定だったが、具体的な分析結果をまとめて発信することはできなかった。しかし、2年にわたる資料収集・分析を通して、スコラ哲学単体で結果をまとめるのではなく、そこでの分析結果を、ほかの作品の分析に生かすという形のほうがより本研究に適しているのではないかと考えるようになった。さらに、国際学会での発表と査読ありの学術雑誌への寄稿もあり、超自然現象の受容と当時の人間の精神性のあり方を分析するという研究の大枠から言えば、順調に進んでいるといえる。当初の計画では、本年度の研究は、国内学会及び紀要での発信を計画していたため、結果として、予定より広い範囲を対象として研究成果を報告できることとなった。また、年度を通して、分担研究者として関わった中東とヨーロッパの比較研究についてのプロジェクトの成果をまとめた論文集へ寄稿する論文を2本まとめたため、驚異とそれを提供する場ともなる旅行記について、さらに考察を深めることが出来た。以上を総括し、当初たてた研究計画の細部では遅れをとっているが、研究全体としては、おおむね順調と言って良いと判断した。
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今後の研究の推進方策 |
超自然現象の中でも、魔術と科学について分析するという、当初たてた本年度の研究計画通り進めるが、スコラ哲学に関する研究方針の変更をうけて、スコラ哲学の分析結果とこの課題とを組み合わせる形で進めていきたいと考える。なお、この課題については、2011年に海外で研究発表を行った土台がある。 また、本年度当初に刊行された『幻想と怪奇の英文学』が好評を博したため、第二弾の刊行が予定されている。そこでは、動物と驚異について論じる予定である。
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