最終年度には、超自然現象を多数記述している作品『東方の驚異』が、図鑑のように、他作品を読む際に助けとして制作されたものである可能性を指摘した。従来この作品は文学として取り上げられることが少なく、その価値も認められてこなかったが、物語としての流れではなく、そこに含まれている情報に価値があると指摘し、作品の再評価を促した。 また、共同研究者として参加していたプロジェクトの成果をまとめた著作へ二本論文を寄稿した。一点目は驚異と旅行記との関わりについて分析し、二点目は東洋に生息するとされていた怪物蟻のイメージの変遷を追った。特に怪物蟻は一般にあまり知られていなかったため、一般読者からの反響が大きく、古典の知識の継承の形を学界のみならず一般読者まで広められた。著作全体も高く評価された。 学会発表では、本研究で取り上げる重要作品の一つである『マンデヴィルの旅行記』を、当時の英仏の関係という歴史的文脈から読み解き、作品の中にイングランドの国民意識の芽生えが見られることを示した。超自然現象を語る際に重要な辺縁を相対的に捉える考えは、伝統的に世界の辺縁に位置するとされてきたイングランドの見直しと繋がるため、作品中で重要な役割を果たしたといえる。これは、『マンデヴィルの旅行記』研究の新たな知見ともなると考えられる。 最後に、古代中世の動物譚における鷲とフェニックスのイメージの変遷についての論文を執筆し、平成28年の出版に向けて作業中である。ここには、従来の考えを覆すような新たな発見も含まれている。 研究期間全体を通しての成果は、超自然現象を語る際の語りの手法や工夫、当時の人々の不可思議な物事への反応と考察、受容の様子等により、当時の人々の認識や精神性が窺えたことにある。また、古代からの知識の継承に従う情報の複雑化を具体的に示し、中世が古代に比べ、発展した面もあることを示した。
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