本研究は、1884年のイギリス「作家協会」設立という歴史的事実をふまえて、その出来事自体を当時の文学的状況においてみた場合に、どのような文化的意義を持っていたのかを考察しようとするものである。 初年度にあたる平成24年度は、協会設立当初の1890年5月から現在に至るまで発行されている機関誌『The Author』に注目し、その誌上でどのような議論が展開されているかをたどった。具体的には、創刊号から協会設立発起人のウォルター・ベサントが没する1901年7月号までを、大英図書館に赴いて収集し、そこでの掲載記事内容を検討した。そして、創設期における作家協会の掲げた行動方針や理念を考察し、それらが当時の商業化が加速する文学市場においてどのような意義をもつのかを検討した。その成果の一部は、『広島経済大学研究論集』第35巻4号にまとめられた。 平成25年度は、前年度の考察をふまえて、それが当時活躍していた著名な小説家たちによる「小説の未来」をめぐる議論と、どう関連付けられるのかに注目した。なかでも、1890年代に活躍したジョージ・ギッシングを取り上げて、当時の文学市場の裏側を写実的に描いたギッシングの『三文文士』という小説において、作品の商品的価値と芸術的価値の両者を意識し始めた作家たちがそれぞれに「小説の未来」を模索する姿を考察し、その過程と「作家協会」の設立当初の模索の過程との一致を検証した。その成果の一部は、共著『移動する英米文学』にまとめられた。 平成26年度は、これまでの資料収集や考察をふまえて、その成果報告を目標とした。具体的には、11月に上智大学において開催された「日本ヴィクトリア朝文化研究学会」で研究発表を行なった。また、その研究発表にむけての準備として、考察の裏付けとなる一次資料の収集を徹底する必要があったため、8月には再び大英図書館に赴き、機関誌の収集を行なった。
|