研究課題/領域番号 |
24720145
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
前田 しほ 北海道大学, スラブ研究センター, GCOE共同研究員 (70455616)
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キーワード | ソヴィエト文化 / ロシア文学 / 戦争 / ジェンダー / イメージ |
研究概要 |
平成25年度は、初年度にひきつづき、ソ連の覇権主義的な戦争表象を明確にするための調査・資料収集、データベース作成を行った。中東欧の旧共産圏のうち、ポーランドの首都ワルシャワ、古都クラクフ、旧ドイツ領ヴロツワフの三都市をサンプルとして、民族主義的な国民統合の動きと、共産主義時代の記憶、ソ連の覇権主義的記念碑の関係を調査した。ロシア国内のローカルな記憶としてペテルブルグにおける封鎖に関する記憶の調査を行った。ベラルーシにおいては、現地の歴史研究家の協力の下、虐殺の跡地を調査し、24年度に行った現地調査の補完をすることができた。 海外での研究成果報告も、ポーランドの国際学会と、モスクワのミニシンポの2本を行った。モスクワのミニシンポは前田も企画・組織に深く関わり、この際、戦争作家をロシア各地から招致し、現在の文壇における戦争文学の動向についての情報、現地研究者の知見を得た。 これまでの調査と研究をもとに、ジェンダーの観点から戦争記念碑に関して、一定の理論的枠組みを提示することができたので、「地域研究」誌に論文として発表した。これはステレオタイプな戦争神話に関する論考である。これに対するオルタナティブな創作活動として、1980年代の女性作家の作品と看護婦のイメージに関して、ポーランドで報告し、次年度論文として発表することを視野に、論考を深めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ロシアの戦争記憶の調査とデータベースの作成が順調にすすみ、比較のため、旧ソ連のローカルな記憶と中東欧の記憶に重点を置き、資料収集・フィールドワークを実施した。調査結果を分析し、記念碑的人物像の類型化をすすめた。この点については、国内のレフェリー付き学術雑誌に受理され、刊行された。次の段階として、女性作家の文芸作品におけるジェンダー構造を分析し、戦後のロシア文化における戦争記憶の神話化についての考察を国際学会で報告した。関係する国内外の研究者とも交流をはかり、研究活動は順調に進み、かつ積極的に発表している。個人での調査・研究を進めるほか、国内の研究基盤を強化するため、中国・ベトナム等社会主義体制下にある国を対象とする地域研究者と協力し、ベラルーシ調査とモスクワのミニシンポを行った。 以上のように、平成25年度の研究計画は順調に実地することができたといえる。
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今後の研究の推進方策 |
①ひきつづき戦争に関する文学・ポスター・映画・演劇・記念碑・博物館に関する資料収集・フィールドワークの実施、戦争作家インタビュー、データベース作成を行う。平成26年度は研究の視野を広げ、共産主義国家と敵対関係にある台湾・韓国の戦争記憶の調査を行う。また中央アジアを調査し、ソ連圏のローカルな記憶についての比較を行う。 ②ジェンダーに加え、エスニシティにも焦点をあて、ソ連型記念碑のローカル化についての論考を深め、理論的な枠組みを探る。 ③研究成果を国内外で発信する。6月カザフスタンの文学フェアでの女性文学の可能性についての招待講演を予定している。11月の日本ロシア文学会(山形大学)においても、これまでの研究成果を報告し、専門家の議論の遡上にあげ、論考を深めたいと考えている。また英語での研究活動に力を入れる。単独の報告ではなく、パネル組織をすることにより、国際的研究活動に対応しうるリーダーシップを培うことをめざし、現在2本のパネルを企画している。第6回スラブ・ユーラシア研究東アジア学会(ソウル、6月27-28日実施予定)と、ICCEES世界大会(幕張、来年度8月)である。カザフスタンの文学フェアでの招待講演
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次年度の研究費の使用計画 |
未使用額6,752円のうち、5,793円は3月納品の書籍および研究資料の郵送費の支払いが 4月になるため発生したものであり、残る金額は、経費の節約により生じたものである。 5,793円は、3月納品の書籍および研究資料の郵送費の4月支払いに充てる。残る金額は、海外調査に関わる旅費に使用する。
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