前年度の研究によって、ジャンヌ・ダルクを寡黙な少女と捉えるジョルジュ・ベルナノスの解釈が、歴史的に見ても、同時代の他の作家と比較しても、独自性が極めて高いことが浮き彫りとなった。 今年度は、1.寡黙なジャンヌへのベルナノスの傾斜が、第一次世界大戦後から同作家が抱き続けた言語表現の限界や言語の喪失の意識を源泉とすること、2.ベルナノスが、ジャンヌ・ダルクを小説等の虚構作品において表象することに消極的であったこと、3.ジャンヌ・ダルクの死を着想源とする小説『新ムーシェット物語』のエクリチュールが、言語の喪失の意識を抱くベルナノスによる、新たな言語を紡ぎ出そうとする実践的な試みであったことを明らかにし、その成果を、国際シンポジウム「世界大戦期の文学創作と女性たち」(岩手大学)において発表した。その際、日本学術振興会外国人招聘研究者としてシンポジウムに参加したエリック・ブノワ教授(ボルドー第3大学)から、ベルナノスのジャンヌ・ダルク解釈への福音書の影響について探るよう示唆を受けた。 この示唆を踏まえて検討を続けたところ、ベルナノスのエッセー『戻り異端で聖女のジャンヌ』におけるジャンヌの沈黙と、マタイ福音書に見られる捕縛されたイエス・キリストの沈黙との間に類似性を見出すことができた。さらに、上記エッセーにおいてベルナノスが言及しているシャルル・ペギーもまた、両者の沈黙を重ね合わせていたことが確認されたため、ペギーがベルナノスに与えた影響を明らかにするべく、作品の検討を進めている。その成果については、平成26年度の国際シンポジウム「ペギーの声:現代に響くこだま」(スリジー・ラ・サル文化研究センター)において発表する予定である。 上記研究のために、フランス国立図書館(パリ)とジャンヌ・ダルク関連施設(ドンレミ)を訪れ、調査を実施した。
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