研究課題/領域番号 |
24720150
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研究機関 | 東京芸術大学 |
研究代表者 |
大森 晋輔 東京芸術大学, 音楽学部, 准教授 (50599272)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | クロソウスキー |
研究概要 |
本研究は、フランスの作家・思想家・画家であるピエール・クロソウスキー(Pierre Klossowski, 1905-2001)の言語観に注目し、これまで申請者が行ってきた研究の成果を「クロソウスキーにおける言語論の研究」へと総合する試みである。平成24年度の研究計画のうち、一つ目に挙げた評論『わが隣人サド』の検討に関しては、計画以上の大きな進展があった。申請者は、当初の研究計画では『わが隣人サド』の再版時(1967)に付された「悪虐の哲学者」の読解と分析を通じ、ここで論じられているサドの言語思想、特にクロソウスキーがサドにおける「書く行為」をどう評価していたのかを他の著作と関連付ける形で明らかにすることを目指した。結果として判明したのは、再版時の「悪虐の哲学者」に限らず、実は1947年の初版時から、クロソウスキーの言語思想の核となる部分は基本的に変化しておらず、初版を丁寧に読むことではじめて再版の意義が理解できるばかりか、再版はむしろ初版からの一貫した問題意識の帰結として位置づけられることを具体的に解明することができた。平成24年度に、申請者はこの成果を平成25年6月発行予定の『思想』(岩波書店)のために論文として執筆した。ついで、12月1日・2日に法政大学で開かれたジョルジュ・バタイユ没後50年記念のシンポジウムにおいて、クロソウスキーのサド論とバタイユの関係について論じた発表を行い、それを元にした論文を法政大学の紀要『言語と文化』第10号別冊(平成25年2月発行)に掲載した。また、本年度研究計画の二つ目に挙げた小説『バフォメット』の検討に関しては、平成24年8月に発行された『別冊水声通信(セクシュアリティ)』に投稿した論文の一部に、その成果の一部が示された。以上を通じて、申請者はクロソウスキー作品における言語の重要性について、さらなる確信を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前述の通り、平成24年度の計画のうち一つ目の『わが隣人サド』の検討に関しては、関連する論文2つ、口頭発表1つをこなし、当初の予想以上の成果を得ることができたと考えている。二つ目の『バフォメット』の検討に関しては、本年度中に公刊された別の論文においてその問題設定の一部が示されているものの、それ以上の具体的な成果を挙げることは現在のところできていない。しかし、これは平成25年度に行う予定の『生きた貨幣』の検討を行う中で、『バフォメット』に関するまた別の論点が浮かび上がってくることもあるのではないかと見ている。 したがって、「おおむね順調に進展している」とした。
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今後の研究の推進方策 |
評論『生きた貨幣』(1970)において考察された言語と貨幣の関係についての研究を行う。本書は、主体の欲望の次元と産業社会の生産=消費の次元を重ねることで、欲望が広く社会に流通するシステムを思考しようとするものである。ここでクロソウスキーは、主体の欲望と産業社会の次元を媒介する「等価物」としての貨幣を、社会の中で主体の欲望を伝達可能な形で流通させるために変換されたものであるとする。われわれはこれをクロソウスキーのそれまでの言語論の発展した形としても捉えることはできないだろうか。言語も貨幣と同じく、主体の欲望をそのままで伝えることはできず、つねにその模像(シミュラークル)としてしか流通させることができない。また、両者ともそれ自体では価値を持たず、一種の代理物あるいは記号として、つまり関係性の網目の中で用いられたときのみ意味を持つ。ただし、これは主体の欲望の次元から言えば「代理物に変換されたもの」でしかないため、伝達行為においては根源的な否定性がつきまとう。しかし、クロソウスキーは本書でそうした言語や貨幣を社会で流通させているさらなる媒体としての「身体」という要素に着目し、その末尾においては身体を貨幣の代わりに用いる社会を想定する思考実験を行う。労働やサービスの対価を貨幣ではなく「身体で払う」というのは現実にはあり得ない想定ではあるが、このような思考実験は、クロソウスキーが言語や貨幣を単なる「交換」の手段として考えているのではなく、われわれの中で波立ち騒ぐ「交換不可能な」欲望の反映そのものとして捉え、それらを身体と「交流」、「共存」させていこうとするクロソウスキーの執念の表れではないだろうか。本年度は本書を、クロソウスキーがこれまで行ってきた言語に関する考察を発展させた一つの形として捉えて検討を進め、『東京芸術大学音楽学部紀要第39号』に論文を投稿(8月末締切)する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
昨年度に引き続き、研究を進めるのに直接的に関わる書籍を購入する。また、申請者の所属する日本フランス語・フランス文学会の年会費の支出も生じる予定。さらには、10月26・27日に別府大学・大分県立芸術文化短期大学の共催により、この学会の秋季大会が開かれるため、その旅費を確保する必要もある。さらに、文具、文献複写代などの支出もほぼ同じように行われる予定。昨年度行った海外出張は本年度は行わない予定である。
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