最終年度に当たる平成26年度の研究実績としては、過去2年間の蓄積を踏まえ、大阪市立大学ドイツ文学会第53回研究発表会において本研究の成果を公表したことが挙げられる(平成27年3月)。具体的には、これまで日本のドイツ文学研究で論じられることのなかったアレックス・ウェディングについて、その文学的軌跡を概観することで、文学史的に彼女を1920年代のプロレタリア革命児童文学から、戦後、東ドイツにおいて形成・展開された社会主義児童文学への橋渡しに寄与した作家として位置付けた。その際、ウェディングが中国およびアフリカを舞台にした作品を執筆し、さらにそれら遠方の地の昔話の翻案にも取り組んでいた事実を念頭に、彼女の文学的関心が同時代の東ドイツに限定されることなく、時空間ともに拡がりをもって展開された点を強調した。次に彼女の代表作『エデとウンク』(1931)の分析結果を総括した。まずは両大戦間期ベルリンの出版状況を背景に成立史を紐解き、続いて戦後、ウェディングが東ベルリンに移住したのちの受容史を検討した。作品解釈としては、ウェディングの描く子どもの世界には大人の世界の党派的対立が反映されている点を重視し、ここにヘルミュニア・ツア・ミューレンのプロレタリア革命童話との相違点を見出した。そして共産党(のみ)を肯定的に描写する点に、本作がのちに東ドイツの学校教材として積極的に利用されることになる萌芽を確認した。また、この作品が大都会ベルリンの周縁部に暮らすロマの生活実態を詳述している点に、イデオロギー的なプロレタリア革命文学がリアリズムに基づいた社会主義文学へと変遷する一端が垣間見られることを指摘した。 なお、本研究によって得られた成果および今後の課題は、平成27年度採択の基盤(C)「両大戦間期ドイツ児童文学における都市ベルリンの表象についての研究」(課題番号15K02411)に継続される予定である。
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