近代社会において成立した男女観は、新たなレトリックによる男女差別の正当化という側面を含んでいる。それは19世紀末から20世紀初頭にかけての時期、ドイツ語圏で遅まきながら女性の社会進出が進むなかで、極端な女性嫌悪の風潮へと行き着いた。興味深いことに、ヴァイニンガー、クラウス、カフカなどのユダヤ系男性知識人においては、こうしたジェンダー観が自らの民族意識と交錯している。つまり、ネガティブな意味での「女性」の像が「ユダヤ人」の像と重ね合わされているのである。本研究では、この重なり合いの現象を出発点に、ナショナル・アイデンティティ(民族意識、国民意識)の形成とジェンダー規範の相互作用を追った。
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