研究課題/領域番号 |
24720154
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
山本 潤 首都大学東京, 人文科学研究科(研究院), 准教授 (50613098)
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キーワード | ドイツ中世文学 / 英雄叙事詩 / 記憶 |
研究概要 |
平成25年度は、前年度に引き続き歴史的ディエトリーヒ叙事詩を題材とし、そこに読み取ることのできるヨーロッパ中世における歴史意識に関しての研究を行った。英雄詩は口承の領域における歴史伝承であるとのコンセンサスが存在するが、例えば2013年のF.クラーグルのように、近年この認識に対して疑義を表明する研究者も現れている(なお、このクラーグルの論文に関しては『西洋中世研究』第5号に新刊紹介を執筆した)。そのため、英雄詩の持つ歴史伝承としての側面に注視する本研究をさらに深化させ、また文化史上における中世という時代の立ち位置をより明確にするために、中世ドイツにおける「過去」という時間・時代の理解、および現代ドイツの中世理解という二つのテーマを本研究に追加することとした。前者については2013年6月の西洋中世学会でのシンポジウム「中世のなかの「ローマ」」において口頭発表を行った。そこでは、本研究の最重要の研究対象の一つであり、ドイツ語圏における初の俗語年代記文学である『皇帝年代記』を主に扱い、とりわけ作品内でのローマ理解から、中世人の自己理解に焦点を当てた。また、後者については平成24年度に口頭発表を行った研究をもとに、日本独文学会研究叢書に論文を掲載した。平成25年度の研究からは、歴史的ディエトリーヒ叙事詩が詩作された時期は、まさに記憶の伝承を担うメディアの転換期にあたっていることが明確になっており、今後さらに時代が下った時点で成立した『英雄本散文』との比較から、英雄詩の伝える「記憶」の史実性と虚構性の変遷を検証する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度の研究では、取り組むべき計画は順調な進捗を見ることができた。ただし、研究主題を追加する必要が生じたため、当初年度内に開始する計画であった『英雄本散文』の解釈を後に回し、『皇帝年代記』のテクスト解釈を主に行った。その成果を口頭発表という形で公表したことは、大きな成果といえる。さらに、口頭発表や論文および新刊紹介の執筆を通し、これまでの研究成果の整理および今後の論点を明確化したことで、26年度の研究のための十分な下地を準備することができた。また、今後の研究に必要な文献を2014年2月の渡独によって収集することができたため、平成25年度は必要十分な成果を上げたと考えている。一点さらに年度内に進めたかった研究課題として、オーストリア国立図書館で収集してきた写本データの整理とその検証を挙げておく。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は平成25年度の研究成果に基づき、さらに『ディエトリーヒの逃亡』、『ラヴェンナの戦い』および『皇帝年代記』に関する解釈を本研究の主題である「記憶の変容」という視点から俯瞰的に整理し直す。それとともに、これらの作品で扱われているディエトリーヒ・フォン・ベルンを軸に、ドイツ語圏に伝わる英雄叙事詩の主人公たちの出自や血族関係の関連付けを行っている通称「英雄本散文」を解釈し、時代的に異なるテキストに読み取ることのできる過去の事象に関しての「記憶」の有り様に関しての比較検証を行う予定である。また、これまでの研究成果をもとにシンポジウムを開催できる可能性が生じたため、平成26年度中にまずは国内のドイツ中世学の研究者に声をかけてシンポジウムを開催し、そこで本研究の成果を報告および議論することができないか、目下模索しているところである。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度に基礎研究に必要な書籍を集中的に購入したため、今年度は書籍購入費が減少した。それに加え、新しく刊行され購入を検討している書籍が40万円を超えているため、今年度の予算の枠内では購入できず、購入の可能性を残すために多めの金額を次年度に回すこととした。また、本研究の成果を公表し、これに関連した議論を行うシンポジウムを開催できる可能性が出てきたこともあり、平成26年度に予算を集中しようと考えたため、次年度使用額を大目に計上した。 上述のように、金額の大きい書籍購入を検討している。ただし、平成25年度の研究過程で、本研究の主題に基づいたシンポジウム開催の可能性が出てきたため、それの実現のめどがついた場合には書籍購入を行わず、シンポジウムの諸経費および講演者への謝礼に使用することを予定している。
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