本研究は、声の文化の領域において過去の記憶を伝承するメディアであった英雄詩が、書記文芸の伝統との混淆を経てどのように変容していったかを、ドイツ中世英雄叙事詩の諸作品において検証するものである。これは、記憶とメディアの関連性に関する文化史の一側面を、文芸作品に即して実証的に明らかにする試みであり、とりわけ書記化された口誦素材の歴史性の問題、超個人的な記憶を伝承する素材と作品の作者性の問題に関しての考察を主軸とした。そして、同時代の様々な文芸ジャンルのメディア的規範に依拠した、英雄詩素材のアクチュアル化への試みと、それまでの文芸伝統に対し俯瞰的な視線を持った「作者」の立ち位置を明らかにした。
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