研究課題/領域番号 |
24720155
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研究機関 | 静岡県立大学 |
研究代表者 |
森 直香 静岡県立大学, 国際関係学部, 講師 (60611829)
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キーワード | ロルカ戯曲の死生観 / ロルカ戯曲の汎神論的世界観 / ロルカ作品の日本における受容 |
研究概要 |
平成25年度は、日本人読者がロルカ作品をどのように受け止め、解釈したかについて考察を行った。なお、読者には研究者、翻訳者をも含めた。具体的には、書評、論文、関連書籍、公演評の検討を通し、彼らがロルカ作品にどのようなイメージを抱いたかを、戯曲『血の婚礼』を中心に明らかにした。 その結果、日本人読者はロルカ作品の、1)動き、台詞の様式化と視覚効果をはじめとしたスタイルの新しさ、2)詩的言語、3)スペイン性、4)ギリシア悲劇的世界観の4点に特に注目していることが明らかになった。そして、その成果を「日本とガルシア・ロルカ:悲劇的イメージの創造」(研究発表、「生きることの悲劇:スペイン語文学における苦悩と悪」)マギル大学(カナダ)、ウニベルシタ・カステリャエ(スペイン)共催。2013年6月26~28日、於 バリャドリード)として発表した。 なお、前述の4点の中でも、4)の中にあらわれるロルカ独自の死生観は、日本人読者の興味を特に引いた。これにはロルカ自身の死が謎に包まれていることも関係していると考えられる。実際のところ、読者の中にはロルカの死を作品と結びつけ者も少なくなく、作者が自らの死を作品中で予見していると考える者すら存在した。 また、多くの読者は、ロルカ作品では死を描くことによって生の輝きが増すと考え、死をあきらめをもって受け入れるという日本人の死生観と対極の態度に魅力を感じた。一部の読者はこのような死生観にスペイン性を感じたが、その一方で、日本文化との共通点を見出す読者も存在し、二つの対照的な受容態度が見られた。これについては、「日本人読者の読むロルカの死生観」(研究発表、京都イスパニア学研究会 第22回大会、2013年12月8日、於 京都キャンパスプラザ)として発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
日本人読者がロルカ戯曲にどのようなイメージを抱き、どのような点に興味を感じているかを具体的に明らかにすることができた。さらに、特に日本人読者が着目したロルカ作品の世界観についても、死生観を中心にその特色を指摘することもできた。以上から、当初の計画通り、順調に研究を進めることができていると言える。さらに、これらの成果を国内外の学会で発表し、研究成果の公表も十分に行ったと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
26年度においては、前年度の研究成果である口頭発表を論文としてまとめる。また、日本人読者が興味を抱いたロルカ作品にあらわれる死生観の全容についても更なる考察を行う。具体的には、①ロルカの未刊行の青年期の作品群に現れる原始的世界観の萌芽、②ロルカの世界観と日本古来のアニミズム的な世界観との類似点、の2点に焦点を絞り、死生観を中心にロルカの世界観について考察する。 なお、当初の予定では26年度はロルカ戯曲の様式性について検討を行う予定であったが、25年度の研究成果の中でロルカ死生観が日本人読者に与えたインパクトの重要性が明らかになったため、この課題を優先する。
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次年度の研究費の使用計画 |
25年度においては、6月と3月のスペインでの研究発表、文献収集、現地調査を予定していたが、健康上の理由(妊娠、26年度6月に出産予定)で3月のスペイン出張を取りやめたため、次年度使用額が生じた。 次年度使用額の一部は、25年度の研究発表を論文にまとめる際の経費(物品費:書籍、プリンターカートリッジ、コピー代、郵送費等)として用いる。なお、今年度は産前、産後、育児休暇を収得する予定であるため、物品費を差し引いた残りは、27年度へ持ち越して支出する。
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