研究課題/領域番号 |
24720156
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 白百合女子大学 |
研究代表者 |
辻川 慶子 白百合女子大学, 文学部, 准教授 (80538348)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | ネルヴァル / ロマン主義 / 引用 / 剽窃 / 歴史 |
研究概要 |
平成24年度には、「ロマン主義時代のフランス文学と引用、剽窃、創造的模倣―ネルヴァルを中心に」という研究課題を始めるにあたって、全体的な問題の整理と文献調査を行い、さらにロマン主義という時代に関する基礎的研究を進めた。 文献調査としては、参考文献一覧を作成した上で、①ロマン主義時代に関する一般的文献、②引用、剽窃、創造的模倣に関する一般的文献、③19世紀の一次資料、の収集および読解を進めている。平成24年8月-9月には、フランス国立図書館で文献調査を実施し、主に19世紀における歴史記述と史料引用、および大衆文学の問題に関して、多くの一次資料を収集することができた。文献調査は平成25年度にも継続して行う予定である。 また、ロマン主義という時代背景を明らかにするために、1830年のロマン主義運動についての調査を進めた。文学史的通説にしたがえば、19世紀前半のロマン主義時代は、模倣ではなく独創性という価値が称揚され、著作権確立に向けての動きが高まりつつある時代であるといわれる。しかし、同時期にノディエ、ゴーチエ、ネルヴァルなどの作家は、大衆文学との接点を持ちながら、あるいは「作家」という表象を揶揄しながら、独創性という概念を覆す作品を発表している。この問題を取り上げるため、「〈若きフランス〉と「文学的なもの」の解体―ノディエ、ゴーチエ、ネルヴァルを中心に」(日本フランス語フランス文学会全国大会ワークショップ報告)という研究報告で問題提起を行った。 他方で、ロマン主義時代の諸問題を幅広く検討するために、『100語でわかるロマン主義』(ブリュノ・ヴィアール著、白水社、2012年)という共訳書を刊行し、さらに国内の研究者と共同で、ロマン主義に関する最重要文献といえるポール・ベニシューの『作家の聖別』翻訳準備を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年には、「ロマン主義時代のフランス文学と引用、剽窃、創造的模倣―ネルヴァルを中心に」という研究課題をめぐる主要な参考文献を収集し、問題の整理と把握を行う予定であった。文献調査はおおむね順調に進んでおり、さらにロマン主義に関する基礎文献を翻訳刊行するなど、成果報告も適宜行っている。 現在の時点で、ロマン主義時代に関する一般的文献、および引用、剽窃、創造的模倣に関する一般的文献に関しては、国内外の主要な文献を収集し、読解を進めるなど、おおむね順調に調査を進めることができた。フランスにおける著作権や剽窃概念の成立など、基礎的事項の整理、および引用・剽窃を用いた文学作品の把握を中心に問題の調査を行っている。 また、19世紀の一次資料に関しては、フランス国立図書館における文献調査を行い、主に歴史記述と大衆文学に関する資料の収集、整理にあたった。ただし、調査期間が夏期休暇中の1ヶ月弱と限定されたものであったため、必要な資料をすべて調査できたとはいいがたい。次年度にも夏期休暇を利用してパリに長期滞在をし、引き続き資料収集と分析にあたりたいと考えている。 他方で、ロマン主義を中心とした研究報告を行い、基礎文献の翻訳も刊行した。平成24年10月には神戸大学における日本フランス語フランス文学会全国大会で「〈若きフランス〉と「文学的なもの」の解体―ノディエ、ゴーチエ、ネルヴァルを中心に」と題するワークショップ報告を行い、また、『100語でわかるロマン主義』(ブリュノ・ヴィアール著、白水社、2012年)という共訳書を刊行した。また、ロマン主義に関する最重要文献であるポール・ベニシューの『作家の聖別』を国内の研究者と共同で翻訳を進めている。 以上のように、研究課題をめぐる問題の整理と文献調査は順調に進めることができたといえるだろう。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度の研究成果をふまえて、今後は、①19世紀フランスにおける大衆的メディアと作家の表象についての研究、②ネルヴァル『幻視者たち』の出典に関する追加調査という二つの面で研究を進める予定である。 第一の点に関して、19世紀前半における文学がジャーナリズムの隆盛と表裏一体であり、ロマン主義時代が同時に、新聞連載小説などに代表される「産業文学の時代」(サント=ブーヴ)でもあったことは、すでに多くの先行研究が示す通りである。しかし、これまで十分に研究対象とされてこなかった課題として、「幻滅の流派」と呼ばれる作家・詩人であるノディエ、ゴーチエ、ネルヴァルがいかに大衆的刊行物および大衆文学と関わってきたかという問題がある。事実、大衆的刊行物や大衆文学では、安易な剽窃および先行テーマの再利用が頻繁に見られたのであり、これらの作家はそうした営為を熟知していた。そして、そのような剽窃や模倣をただ単に批判するのではなく、むしろそこにこそ民衆という「集団的なもの」と文学との交感の場を見出し、文学作品自体の刷新をも目指そうとするのである。この点に関して、今年度に行った問題提起を発展させ、実証的に文献調査を進めた上で、研究成果として発表したい。 第二に、ネルヴァル『幻視者たち』に関しては、博士論文においてすでに多くの出典文献を確定しているが、何点かに関して出典が不明なままであるなど課題が残されていた。大衆的刊行物との接点という第一の研究と並行して調査を推し進めることで、出典に関する補足的研究を行うことができると思われる。夏期の長期休暇を利用して、フランス国立図書館での資料調査と分析にあたり、この点についても研究成果の整理を進めたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度には、引き続きフランス国立図書館での文献調査を実施するため、研究費は主に旅費として使用する予定である。 平成24年度には、ロマン主義時代、および引用、剽窃、創造的模倣に関する一般的文献を中心に調査することができた。ただし、19世紀の一次資料に関しては、歴史記述と大衆文学を扱う上での主要文献を収集することができたものの、十分な調査期間を確保できたとはいいがたい。 次年度には、大衆的刊行物や大衆文学および演劇を中心に調査を進める予定である。この調査を行うためには、国内では入手できない資料が多く存在することもあり、フランス国立図書館での調査が不可欠である。さらに、ネルヴァル『幻視者たち』の出典研究を補足するためには、同図書館の定期刊行物および貴重書保存室での資料の閲覧が必要となる。夏期休暇などを利用して文献調査を進め、また、今後の資料のデータベース化を考えて、収集した資料は適宜、電子化して整理していきたいと考えている。 このように、研究費を活用してパリに長期滞在を行い、資料調査にあたるため、研究費は主に旅費、滞在費、および資料複製費に用いる予定である。
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