研究課題/領域番号 |
24720158
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研究機関 | 法政大学 |
研究代表者 |
高橋 愛 法政大学, 社会学部, 講師 (80557281)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | エミール・ゾラ / 自然主義 / 視覚芸術 / 美術批評 / 印象派 |
研究概要 |
本研究の目的は、ゾラの小説、美術批評、書簡、写真を同時代の写真ならびに絵画と合わせて考察することにより、イメージを創造する力についてゾラが展開した持論の内実と背景を浮かび上がらせることである。 本研究の1年目にあたる2012年度は、基礎的な調査と関係文献・資料の収集を行った。本科研費によって8月中旬にはパリへ赴き、フランス国立図書館とオルセー美術館附属図書室で19世紀後半の写真・絵画資料を調査した。その作業を通して、ゾラの写真に関する分析を深め、明らかにすべき問題点を抽出することができた。本年の後半は、主にゾラの絵画・写真をめぐる視覚体験を『三都市』の第3巻『パリ』との関わりから検討した。ゾラによって撮影されたジャンヌ・ロズロの写真を、『パリ』の草稿と決定稿、同時代の関連資料に照らして分析し、以下のような問題を明らかにした。 1880年代後半からプライベートな場面で写真に傾倒したゾラは、同時期に恋人関係となったジャンヌ・ロズロを多くカメラに収めている。ゾラにとって、カメラは日常で見出した幸福を純粋に表現するための道具であり、文学作品とは異なって、画像には公に主張すべき意味を内包する必要がなかった。しかし、写真が私的世界の視覚化に限定されたものであったとしても、ゾラとジャンヌが共有した記憶を通して画像を見ると、作家が文学世界で結晶化した要素が潜んでおり、その軌跡をたどる縁となる場合がある。ゾラが写真や当時の絵画を通じて得た視覚体験や意識は、『パリ』の主人公ピエール・フロマンが精神的彷徨の末に見出したものを描く場面において、特に大きな影響を及ぼしている。 以上の研究成果を、日本比較文学会東京支部において口頭発表する予定である(2013年4月20日、東京大学)。この研究に付随して見出された主題についても、2013年度に論文としてまとめていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記のように区分する理由を次の2点にまとめることができる。 1.日本とフランスで資料収集と文献調査を行った結果、関係する書誌の整理をし、本研究をめぐる社会的コンテクストについても理解を深めることができた。 2.『ルーゴン・マッカール叢書』と『三都市』の再読・分析を通じて、2013年度にまとめるべき論考の内容を明確にできた。
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今後の研究の推進方策 |
2012年度に引き続き、1~4の資料収集・分析を行う。1年目の分析を次のような方法で深化させたい。 1.『ルーゴン・マッカール叢書』の草稿ならびに自然主義文学に関わる書籍の購入・分析。『ルーゴン・マッカール叢書』の草稿は、引き続きLa Fabrique des Rougon-Macquartの新刊も含めて調査し、購入を続ける。未刊行の部分については、フランスで補完作業を行う。『三都市』については、インターネットを通じて公開されている草稿を閲覧する(Bibliotheque Mejanes)。 2.絵画と写真の関連資料の購入・分析。ゾラの小説と19世紀の絵画・写真との関連について、文献の整理を継続し、国内で入手不可能な書籍、資料についてはフランスで補完する。 3.フランス19世紀における写真の調査・分析。1年目に行った写真に関する調査をパリのフランス国立図書館に再度赴いて継続する。 4.ゾラの小説と写真の分析。1~3の方法によって得られた内容を基に、ゾラの小説と写真の分析を継続する。ゾラ周辺の小説家や画家、写真家との関係にまで視野を広げた考察を試みたい。最終的に本研究の課題である「エミール・ゾラと写真をめぐる芸術創造の問題」の論考を完成させる。具体的な成果を日本語とフランス語の論文としてまとめ、発表する。
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次年度の研究費の使用計画 |
2013年度の研究費について、その使用計画は大きく次の2点にまとめることができる。 1.関連する図書資料について整理し、追加すべき文献を購入する。 2.国内で入手不可能な書籍・資料の補完、文献調査を続けるため、休暇などを利用して、フランスを中心に国外出張を行う。
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