研究課題/領域番号 |
24720160
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研究機関 | 神戸女学院大学 |
研究代表者 |
大橋 完太郎 神戸女学院大学, 文学部, 講師 (40459285)
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キーワード | 啓蒙思想 / ディドロ |
研究概要 |
当該年度は、研究目的に掲げた『ラモーの甥』に見られる寄食者の非人間性という観点から、二つの重要な成果と一つの補足的な成果をあげることができた。 一つはディドロにおける非人間的なものの概念がリオタールにおいてどのように変奏され受容されたかという点に関してである(「ディドロとフランス現代思想:リオタール『非人間的なもの』との関係から」、『フランス哲学・思想研究』、18号、日仏哲学会、2013年9月、3-15頁)。構造主義以降のフランス思想の非人間的展開において、ディドロの視点がいまだに解消されていない人間を超えるものに対する注意と共生可能性を提示し続けていることがあきらかになった。 二つ目はディドロの主要著作である『ラモーの甥』に関して、フーコーによる解釈の一面性を指摘し、ディドロに固有の身体性の現代的な意義を明らかにすることができた(「パントマイムする身体の相:『劇詩論』と『ラモーの甥』から」、『思想』、1076号、岩波書店、2013年12月、232-250頁)。とりわけ、寄食者という存在が革命以前の精神と革命以後を予見する精神との分裂状況として解釈できることを示し、『ラモーの甥』における寄食者の身体がもつ哲学的・美学的な意味を明らかにすることができた。 補足的な成果としては、キルケゴールを扱ったシンポジウムを当科研費の共催で開催し、実存思考における身体性の意義を、キルケゴールと十八世紀の身体論、および現代の身体論との比較において考えることができた。これはディドロを中心とした十八世紀の身体論の現代的意義の測定について、重要な示唆を与えるものであった。 以上、ディドロの思想の現代的な受容に関して、有益な研究成果を数点提出することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ディドロと現代思想との関係に関して、当該年度は三本の論考を公開することができたことは本研究が順調に進展していることを証明するものである。リオタール、フーコー、実存主義的身体論とのそれぞれの関係において、ディドロの思考に含まれる独自な観点がもたらす意義が認められた。具体的には、以下の三点を指摘できたことが今回の大きな達成内容である。 1)技術と人為の関係を再び考え直すことで、積極的な意味での非人間性を考える必要性(リオタールとの関係)。 2)美的な表出の源としての身体の力が、芸術を模倣として製作し続けながらも社会において「貧困」「ならず者」として自らを現わさざるを得ない現代社会の構造(フーコーとの関係)。 3)機械論的身体における倫理的な新しい可能性、すなわち身体が機械的であるが故の倫理性のありどころ(実存主義、現代身体論との関係)。 こうした作業により、カンギレムやセールなど、他の現代思想における「異常者」としてのディドロの思考の意義や、それが含む人間中心主義からの積極的な回避の意味も、今後より明らかなものとなるであろうことが予想される。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策としては、実証的な側面、ディドロに関する個別研究的側面、現代との関係を射程に入れた側面の三つの展開が考えられる。 1)実証的側面:当該年度で夏期にフランスの国立図書館における研究調査のための滞在をおこない、『ラモーの甥』の実証的資料を入手することができた。本作に関わる具体的な人物や証言といった詳細をもとに、「狂気」「寄食者」の形象の形成にについて緻密な分析をおこなうことが可能となった。 2)ディドロに関する個別研究的側面:『エルヴェシウス論駁』『クラウディウスとネロ、セネカ論』における狂気の扱いについての分析。および、ディドロにおける情念とエクリチュールについての関係を問う研究。後者に関しては26年度の5月に日本フランス語フランス文学会全国大会のワークショップで口頭発表をおこなうことがすでに予定されている(なお、この側面に関する問題は両者ともに26年度研究計画としてすでに申請時点で予定されている)。 3)現代との関係を射程に入れた側面:「非人間的」なものを肯定する哲学として、ディドロの思考を基盤においてフランス現代思想の各局面を解釈する著作・論考を発表する。具体的には、ドゥルーズにおける「生成変化」およびデリダにおける「人間の終わり」という概念が、ディドロの思想とどのように切り結ぶことができるのかを考えてみたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
参加予定であった国際美学会が本務校の都合で参加不可能になったため、旅費の使用予定額が減少した。ディドロ生誕300年にあたる年度でもあったため、参考書籍が多く出版され、物品費については予定より高額を使用することになった。 フランス、パリにおける国立図書館と国立文書館において文献・資料の収集をおこなうための旅費・滞在費として用いる予定である。
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