本年度は、『金瓶梅』の服飾描写を通して何が見えてくるのか、服飾描写は作品の中でどのように機能しているのか、という問題について、更に考察を深めた。ある持ち物や服飾、身体的特徴といった外見が、特定の人物と結びつけられて描かれる例は、先行する作品においてもしばしば見られる。しかし『金瓶梅』において、服飾と人物との関係は、そうした記号的な次元にとどまらない。服飾は、人物形象に奥行きを与え、ストーリーを深化させる手段として、意識的に用いられていることを、具体的に指摘した。こうした人間描写の手法は、『紅楼夢』をはじめとする後世の文学作品に大きな影響を与えたものと考えられる。 研究成果は、「『金瓶梅』の服飾描写」という題目で中国中世文学会の大会で口頭発表を行い(2014.11)、国内外の研究者と意見交換を行った。2015年9月刊行の論文集に掲載する予定である。また、本研究に関連して行った版本および影印本の調査(2012年度徳山毛利家所蔵『金甁梅詞話』、2013年度台北故宮博物院蔵『金甁梅詞話』、2014年度台北国家図書館および東京大学東洋文化研究所所蔵『金甁梅詞話』影印本に関する調査)の過程で見えてきた問題を、「台北故宮博物院蔵『金瓶梅詞話』の影印本をめぐって」(『中国学研究論集』第33号)として発表した。
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