研究課題/領域番号 |
24720165
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
大渕 貴之 鹿児島大学, 教育学部, 講師 (40614764)
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キーワード | 対偶 / 判 / 白居易 / 白氏六帖 / 成書 |
研究概要 |
本年度は、『白氏六帖』収載条文と『藝文類聚』・『初学記』のそれとを対照するなかで見出し得た『白氏六帖』に特有の対偶表現について調査及び考察を行なった。また、その成果について日本中国学会第65回大会(平成25年10月12日 秋田大学)において口頭発表を行なった。 当初の計画では、本年度は対照作業を進めるのみであった。しかし、事前の計画では予期しなかった『白氏六帖』に特有の対偶群を検出するに及び、対照作業を中断して当該対偶の考察に焦点を当てた。本研究が最大の目的とするのは、『白氏六帖』の原型考察である。対照作業により他の二種の類書より移入された条文を見出すのと同程度に、該書に特有の条文について考察することも重要である。とりわけ、ほとんど全ての条文が他書よりの移入で構成される部立てにおいて、特有の条文を有する現象は、比較対象とする類書の選定の妥当性に影響しかねない重大事でもあり、調査を急いだ。 その結果、問題となる対偶群は、白居易が判を作成する過程で創作した草稿段階のものである可能性を見出した。判とは、司法、行政の実際政治、或いは倫理、経義上の諸問題についての判断を示した文章である。それらが、想定通り白居易の草稿であるならば、『白氏六帖』成立に関する唐宣宗勅輯説の根拠資料『政事要略』所収「白居易伝」の記述に符合する点で、同説の補強となるだけでなく、白居易の佚文・佚句の発見にもつながる点で大きなインパクトを持つ。原書の姿、或いは後世における改編の具体的様態を更に深く考察する新たな手掛かりを得たことにもなる。平成26年度に予定していた全国学会での研究発表を前倒して実施した所以である。 同学会での口頭発表とそれに関する諸先生方のご指摘を踏まえ、本年度末に論文を執筆し終えた。関連する論考とともに著書として公刊すべく、既に出版社(研文出版)に原稿を納めたところである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定の条文対照は明白に遅滞している。しかし、調査の過程で、想定外のものながら本研究課題が最大の目的とする『白氏六帖』の原型考察に関して極めて重要な情報を入手でき、それに基づいて該書編纂に関する新説に対し更に新たな見解を附加し得た。この件に関して全国学会に於ける口頭発表を行ない、論文に取り纏めて著書の原稿完成にまで至ったことも考慮し、達成度を判断した。課題の最終目的の上から、遅滞を上回る成果を得たと考える。
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今後の研究の推進方策 |
当初予定の対照作業を進める。また、平成24年度に実施した台湾国家図書館における調査結果を用いて、未実施のままである北京国家図書館における調査をも経て、論文としてまとめたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
昨年度の時点で、今年度の実施を計画した中国北京国家図書館への調査旅行を行なえなかったためである。当初計画では、次年度に予定していた日本中国学会に於ける口頭発表を前倒して実施するにあたってその準備に時間と労力を割いたため、まとまった海外出張の日程確保に困難があった。 次年度に中国北京国家図書館への調査を確実に遂行する。
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