最終年度である本年度は、10月に著書『唐代勅撰類書初探』(研文出版)を刊行することにより、これまでの研究成果を広く社会に発信、公開することができた。また、12月には学術雑誌『中国文学論集』第43(竹村則行教授退職記念)号(九州大学中国文学会)に論文「『白氏六帖』の特質」を発表し、更に考察を進めた。 単著『唐代勅撰類書初探』には、本事業による支援を頂戴する以前に学術雑誌等に公開済みであった論考についても、この度の補助事業を受けた最新の成果を踏まえて加筆訂正を行い収録したほか、前年度の日本中国学会第65回大会における成果を始め、これまでの研究を踏まえて執筆した新たな論考を序論、第7章、結論としてまとめた。本書について、本年度前半には、昨年度末に一応の完成を見た原稿に対して、特に第7章の対偶句調査部分に精査を加えることで、資料性と考察の確度との向上に努めた。 論文「『白氏六帖』の特質」は、本助成事業により可能となった台湾の国家図書館(平成25年度)及び北京の国家図書館(平成26年度)に於ける現地調査をもとに伝存する『白氏六帖』の版本系統を考察する中で気付いた点をまとめたものである。調査の当初の目的は、『白氏六帖』の諸本を校合して、『藝文類聚』及び『初学記』との本文対照を行う上で必要となる基礎資料の作成にあった。しかし、早くには初年度の台湾における調査で資料を実見し、複製を入手して校合を行った段階で、諸本の来歴に対する従来の通説とは異なる伝世経緯を想定しうる状況に直面した。この点に関連して、考察のごく一部を先行して発表した。 本課題が当初予定した条文対照はごく一部の事例研究に止まったが、本研究による『白氏六帖』所収の対偶表現の発見、『白氏六帖』諸本の伝世過程に関する再考察の必要性の発見、以上の2点は当初の課題の研究目的を達成するためにも不可避な新たな課題設定につながった。
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