平成27年度では、前年度までに扱いきれなかったデータの分析をもとに学会発表を行い、また前年度後半に着手した実際の社会活動(理容室におけるコミュニケーション)を対象とした研究を進め、さらなる分析と考察を試みた。 平成27年度では、認知的基盤によって支えられた言語的行為と生態学的基盤によって支えられた身体的行為との協調と競合に焦点を当て、本研究の主題でもある会話活動への適応を支える生態学的および認知的基盤に関する知見を整理し、一貫した議論としてまとめ上げることを目指した。 まず、主に平成26年度までに力を入れてきた多人数会話研究の総括として、会話と他の活動との共在について捉え直し、その共在が会話の動向にもたらす変化について改めて記述した。具体的には、「現行の会話から逸脱したもう一つの会話が、現行の会話を妨げることなく開始され、現行の会話と並行する」という会話の分裂(schisming)について、その生起条件や、開始と終了の様相に、会話と他の活動との並行が深く関連していることを示唆した。また、この分裂現象の分析から得られた知見を理容室におけるコミュニケーションの分析にも応用し、身体的行為としての理容行為と言語的行為として会話の並行・両立のメカニズムについて説明を試みた。さらには、そうした並行・両立の様相と、理容室や理容行為を巡る環境的・社会的・慣習的な枠組みとの関連について論じ、実業における参与の枠組みについて、生態学的・認知的コミュニケーション論の立場から論考をまとめることができた。
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