研究課題/領域番号 |
24720170
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
飯田 真紀 北海道大学, メディア・コミュニケーション研究院, 准教授 (50401427)
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キーワード | 否定 / 広東語 / 台湾語 / 文法化 / 存在 |
研究概要 |
本研究の目的は広東語・台湾語における存在否定動詞“無”の文法化及びその関連現象を明らかにすることにある。 25年度では、24年度の成果を受け、“無”及びその肯定有標形式“有”を用いた“無/有V”構文に生起するアスペクト助詞“到”の機能について、コーパスの言語データを用いて、より実証的な考察を行い、あわせて“到”の文法化・機能拡張についても検討し、以下の結論を得た。(論文1)“到”は“有/無”と共起する環境において「事象V の実現への推移」を表す標識であり、語用論的には事象が実現を見る前段階の過程に焦点を当てる効果を持つ。こうした“到”の機能は、“有/無”構文がV そのものの有無に言及するだけで、V 実現への推移や変化に言及することができない点を補うものである。最後に、アスペクト助詞“到”は、「到着」義を表す動詞“到”に由来するが、より直接的には「動作V がP という<点>まで継続する」という構文的意味を持つ“V 到P”の“到”が来源であるとの見解を提出した。 また、“有/無”構文に生起するアスペクト助詞“到”がなぜ広東語において生じたのかを説明するべく、「到着」義を表す動詞“到”の広東語における文法化・機能拡張に一貫して見られる傾向・特質について口頭発表で報告した。(学会発表1) そのほか、広東語における否定関連構文を多角的に検討するため、事態認識のレベルにおける否定現象を取り上げ分析した。(学会発表2)ここでは、助詞ge2について、当該の事態を道理に基づき推論される事態と相反する不合理な事態だと捉える標識であると分析した。 台湾語については、コーパス作成に向け、台湾で資料を選定・収集した。資料には脚本、小説を中心に、論説文や詩などその他のジャンルからも適宜補充した。現在、これらの資料を北京創新力博数碼科技有限公司に依頼し電子データ化を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の研究方法の特色は、言語データを母語話者からの聞き取り調査の結果からだけではなく、コーパスからも収集することで実証的な分析を行う点にある。広東語のコーパスは既に整備してあるが、台湾語のコーパスは本研究を開始してから新たに整備することになった。そのため、台湾語については本年度は資料(作品)の選定は済ませたものの、発音記号の転写、作品ごとの電子化必要個所の選別といった、コーパス作成の基準作りに思いがけず時間を要した。また、電子化を依頼している北京創新力博数碼科技有限公司の方でも作業が滞っており、現時点でまだ電子化が終わっていない。したがって、台湾語についてはコーパスに基づいた実証的分析に入ることができないでいる。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度は台湾語のコーパス構築を優先的に進める。 次に、コーパスを生かして、遅れていた台湾語における否定詞“無”及びその肯定有標形式“有”の振る舞いの考察を進める。特に中心的な課題となるのは、台湾語の“有”の談話における振る舞いについてであり、広東語との対照を行う。この考察においては母語話者聞き取り調査も並行して行うため、台湾語の母語話者をさらに数人確保しておく。 さらに最終年度である26年度は、これまでの考察を踏まえて、両方言における“無”及び“有”の使用範囲の広狭の差、“無/有V”の構文的意味の差、“有V”構文の談話的振る舞いの差といったいくつかの問題を有機的に関連付け、両方言における存在否定動詞“無”の文法化の異同について総合的な分析を行う予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究では広東語・台湾語のコーパス構築は本研究の不可欠の部分をなす。しかしながら、台湾語については経験や語感の欠如などの理由から、実際に電子化すべき資料を選定してからも、発音記号の転写、作品ごとの電子化必要個所の選別といった、コーパス作成の基準作りで時間を要してしまい、電子化作業を外部に委託するのが遅れてしまった。また、電子化を委託した北京創新力博数碼科技有限公司の方でも作業が滞っており、現時点で委託してから2カ月以上たつが、まだ電子化が終わっていない。そのため、当初予定していた電子化委託作業への支払いが済んでいない。 また、電子化された文字資料のコーパス整形、インターネット上の言語データからなるコーパスの整形といった作業に要する人件費も、部分的に上記の事情により使用できないでいる。そのほか、母語話者聞き取り調査が小規模でしか行えず、要した人件費が当初予定よりも少なくなった。 広東語・台湾語の文字資料の電子化が完了し次第、委託先の北京創新力博数碼科技有限公司に速やかに支払いを済ませる。 各種コーパスの整形も早急に行い、人件費の支払いに充てる。 また、母語話者聞き取り調査の規模(人数、回数)を拡大し、より確度の高いデータに基づき考察を進めていく。調査協力に応じてくれた母語話者には謝礼を支払う。
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