研究概要 |
琉球諸語研究は日本語の文法範疇の枠組みを利用しながら,独自の研究手法,用語に従った記述がなされてきた。この研究手法によるデータでは,日本語や日本語の文法知識を知らないと,データを利用することが困難である。本研究では他集落,他言語との比較研究も念頭に入れながら,バランスのとれた章立てや文法記述の手法を定めるための基礎的研究をおこなう。その他にも,琉球語奄美方言の記録・保存・継承に役立てる文法書ならびに解説書の作成をおこなうことを目指す。具体的な研究項目は,①博士論文で取り扱った琉球語奄美方言敬語法の研究成果の発展,②フィールドワークによる総合的な文法記述書の作成,そして③地元還元・方言継承に資することができる一般向け解説書の作成,の3つである。 本研究計画は三年を予定しており,その遂行過程は次の六つの段階に分かれる。第一段階として「琉球諸語の文法範疇認定のための先行研究・文献の調査」,第二段階として「文法記述の手法や記録・分析に関する情報収集」,第三段階として「フィールドワークによる琉球語奄美方言の文法項目調査と自然談話資料の収集」,第四段階として「調査から得られた資料に基づき,文法範疇の定義・認定を皮切りに,音韻,形態,統語,談話と,段階的に分析を進める」,第五段階として「前段階の分析を類型論的観点から整理し,理論家や他言語の専門家にも役立つ文法記述書の作成」,第六段階として以上の作業を基盤にした「一般向け解説書の作成」である。 本年度は,第三段階,第四段階の目標を達成するために,フィールド調査から得られたデータを基に,浦方言の音素目録作成や動詞の活用体系の解明等に努めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までの達成度を研究項目に沿って述べる。 本研究計画は3年を予定しており,その遂行過程は次の6つの段階に分かれており,平成25年度は,第3段階として「フィールドワークによる琉球語奄美方言の文法項目調査と自然談話資料の収集」,第4段階として「調査から得られた資料に基づき,文法範疇の定義・認定を皮切りに,音韻,形態,統語,談話と,段階的に分析を進める」ことを目的とした。 本研究で目指している文法記述書は,音素から複文構造までの言語体系全体の概要を示すことを目指している。 第三段階を達成するために,文法記述の基本単位(音素・音節構造・語・品詞分類等)を定義するため,奄美大島浦集落を中心とした臨地調査を行った。特に,中舌母音や語頭の喉頭化音の有無が語の弁別に影響するため,どこにその音が現われるかに注意を払いながら,500語程度の基礎語彙調査をとおして浦方言の音素目録を作成した。対象地域の特色ある文法事項を可能な限り取り上げるために,対話資料や昔話も収録し,より自然談話に近い資料の収集に努めた。 第四段階を達成するために,調査から得られた資料に基づいた文法範疇の定義・認定・分析調査から得られた資料に基づき,対象地域の文法範疇の定義や認定をおこなうことに努めた。理論的な分析をおこなうために,関連の研究会や学会等に積極的に参加し,そこで得た手法を本研究の分析に反映させた。第三段階と第四段階は,相互に補充・補完する関係となる。また,隣接する集落や同じ奄美方言内である請島方言,与路島方言の調査もおこなうことで奄美方言の特色を浮き彫りにすることを心掛けた。
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