我々日本人が,ドイツ語の文を書く場合,不完全に習得したドイツ語の語感を補うため,日本語の語感にも頼りつつ書くことになるだろう。日本語の語感に頼りながらドイツ語の文を書こうとする場合,日本語からドイツ語にできる,「新しい家への転居」"der Umzug in ein neues Haus" のような句例が,使いやすい形で提供されていると便利である。本研究の目的は,このような「句例」を収集するための手法を確立し,かつその成果をインターネット上などで公開することである。 今年度は,ドイツ語コーパスDWDS,Decowを利用して,データ収集を行いつつ,手法の検討を行った。また,試験的にTwitterおよび,新聞からのドイツ語データの収集手法についても検討を行った。 データ収集の手法としては,「Tisch + reservieren テーブル+予約する」のような,コロケーションに着目する手法を検討した。これにより,ドイツ語データを効率的に収集することが可能であることが確かめられた。しかし一方で,ドイツ語を書くための句例として利用するためには,名詞の冠詞や単数・複数の違いなどにも注意を払う必要があることや,日本語の対訳の付け方でも工夫が必要になることが,さらなる課題として確認された。 研究の中間報告は,ドイツから講師を招聘し行い,最近のドイツ語研究の状況に照らして助言をいただき,結果的にDGfSでの海外研究発表が実現した。 本研究の意義は,従来のドイツ語(理論)研究の知見を活用し,かつ実際の言語使用に着目し,日本人がドイツ語を使うというニーズに応えるための成果を上げている点である。そして,本研究の重要性は,コーパスや,自然言語処理といったICTの発達により可能になった技術を積極的に援用する研究手法を検討し,一定の成果を上げるものとして確立した点であると言える。
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