研究課題/領域番号 |
24720187
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
佐々木 美帆 慶應義塾大学, 商学部, 准教授 (80400597)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 言語学 / 認知心理学 / バイリンガル / 第二言語習得 / 単語認知 / 手話 / 国際情報交換 / イギリス:アメリカ |
研究概要 |
二つの言語の習得と認知プロセスの変化の関係性に言語学的な観点から焦点を当てる本研究では、これまでの研究を継続・発展させ、日英バイリンガルと、更に多角的な二言語の組み合わせの使用者の実験データ収集を行い、二言語の言語知識、言語習得時期、使用環境によってどのように認知プロセスが変わるのかを科学的に分析する。1年目(平成24年度)の研究実績としては、大きく以下の4項目があげられる。 1. 英語多読による日本人英語学習者のリーディングスキルの変化について眼球運動およびワーキングメモリの実験を行った。眼球運動データは膨大なため実験用ノートパソコンを新調し、分析ソフトウェアTobii Studioのアップデート(2.2.8)も行った。多読前のデータ収集は7月、英語10万語多読後は12月に行った。また眼球運動データの保存方法について考慮した。 2. 9月にポーランドで行われたヨーロッパ第二言語学会(EUROSLA)で日英バイリンガルの体の部位のカテゴリー認知と語彙の影響について共同ポスター発表を行った。 3. 同じく9月にポーランドにて英ニューカッスル大学のVivian Cook教授および武庫川女子大学の村端佳子氏とMulti-Competence Workshopを開催し、ワークショップにはMulti-Competence Modelを支持する著名な言語学者が参加した。韓日バイリンガルの感情語の認知について口頭発表を行い、バイリンガル感情研究のJean-Marc Dewaele教授と意見交換ができた。 4. 日本手話母語話者と韓国人日本語話者の日本語の読みと視覚単語実験について、10月に米イェール大学ハスキンズ研究所で発表を行った。またコネティカット大学およびMITを訪問し、さまざまな言語学者との意見交換をすることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、日英バイリンガルと、更に多角的な二言語の組み合わせの使用者の実験データ収集を行い、二言語の言語知識、言語習得時期、使用環境によってどのように認知プロセスが変わるのか分析をしている。 日英バイリンガルのデータとしては、日本人英語学習者の英語の読みの発達を眼球運動データで収集した。眼球運動のデータは膨大でありまた個人差やデータの質の差に幅があるために、分析に時間がかかるが、実験デザインとしては結果が見えるデータが取れているといえる。多角的な二言語の組み合わせという意味では、韓国人留学生の日本語について、感情語の研究と単語認知実験で分析している。更に、日本人ろう者の第二言語としての日本語の読みについて、データ分析、発表を行い、現在、論文を執筆中である。 バイリンガルモデルの確立に向けて、言語認知プロセスに関わる要因を調べるとともに、異なるバイリンガルの形態を注意深く選択し比較調査している。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策としては、これまでの流れを継続し、①実験デザインの改良・新構築と新しいバイリンガルグループに実験を実施すること、②国際学会等で発表および研究者と意見交換を行うこと、そして③これまでの成果を論文にまとめて国際学術誌に投稿すること、を計画している。実験では、今後イギリスのUniversity College LondonのラボにおいてEEG(脳波)およびfTCD(脳血流)を測る機器を使用し、神経科学的なアプローチでバイリンガルの言語と認知について調査する実験を、方法論を学びながら、今までの単語認知実験を改訂して構築する。対象はイギリス在住の日英バイリンガルで、子どもおよび大人の読み書き能力の発達(または低下)を調べる。以前の研究で、日英バイリンガル児は、母親が日本人で、家庭で日本語を話しているとしても、プリスクールに上がった後から第一言語(強い言語)は日本語から英語にシフトしていくことが認められた。ロンドンの補習校でどのような対策をとっているのか聞き取り調査を行い、実験デザインの構築に役立てたい。 また、手話母語話者(ろう者)を対象として、第二言語である日本語や英語の読みにおける音韻処理について調査する研究も進めていく。日本手話話者とイギリス手話(British Sign Language)話者ではそれぞれどのように書記言語を習得・使用しているのかを見ていく。多角的な視点で認知における言語の影響の調査し、データは言語ごとに収集できた時点で分析・学会発表する。最終的には学会発表したものを蓄積し、バイリンガルの言語と認知プロセスの関係性について論文にまとめ、国際学術雑誌に投稿する。
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次年度の研究費の使用計画 |
3年計画の2年目である平成25年度の研究費の使用計画は以下の通りである。前年度からの繰り越し金は実験参加者の謝金分などである。 4~5月:EEGやfTCDを使った実験をするための方法論研究のための資料・書籍代、実験デザインの構築と必要品の購入、6~8月:パイロット実験・本実験の参加者謝金(日英バイリンガル30名程度および日本手話話者数名)、旅費(イギリス・日本往復)、9月:学会参加(EuroSLA 23,アムステルダム)、10月~2月:実験実施(参加者謝金、旅費)および結果分析。 UCLの神経科学実験参加の謝金は慣例的に1時間7.5ポンド(交通費込)で支払っているが、実験の長さと難易度によって調節する。またEEGなどの機器を使用する際のアシスタントには期間中一人上限5万円程度を支払う。日本でデータ収集を行う場合の謝金は以前の慣例から1時間半程度で交通費込で3000円を支払う。
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