研究課題/領域番号 |
24720190
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研究機関 | 昭和大学 |
研究代表者 |
金野 竜太 昭和大学, 医学部, 助教 (70439397)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 統語処理 / ネットワーク / 脳腫瘍 / 失語症 |
研究概要 |
24年度は基本語順の認識機構の解明に迫るための基盤として、統語処理の脳内ネットワークの同定を目標とした。 実験では、21名の左前頭葉の神経膠腫患者を対象に、fMRIと「絵と文のマッチング課題」を施行した。患者を腫瘍存在部位により3群に分け(左下前頭回に脳腫瘍がある患者群、左運動前野外側部に脳腫瘍がある患者群、その他の患者群)、さらに7名の健常者を含めて解析を行った。各患者群の脳活動変化パターンに基づき、統語処理に関与する脳内ネットワークを機能的に特定した。これらのネットワークに関して、健常者を対象とした拡散テンソル画像を用いて解剖学的妥当性を検証した。健常者では左前頭側頭葉の脳活動が認められた。左運動前野外側部に脳腫瘍がある患者群では、左下前頭回弁蓋部・左下頭頂溝・補足運動野・右前頭側頭部の脳活動が増強した。これらの脳領域は、脳梁と右弓状束/上縦束を介したネットワークを形成した。一方、左下前頭回に脳腫瘍がある患者群では、左運動前野外側部・角回・舌状回・小脳の脳活動が増強した。これらの脳領域は、左弓状束/上縦束を介したネットワークを形成した。また、これら患者では、左下前頭回眼窩部、左側頭葉の脳活動が減弱した。これら脳領域は外包/中縦束を介したネットワークを形成した。その他の患者群では、健常者と同様の脳活動パターンを呈した。 また、上記の脳領域に脳損傷がある症例に対して、言語処理障害の有無に関する検討を含めた症例報告を行った。この結果、大脳白質の脳内微小出血・脳症、脳梁膨大部微小脳梗塞、小脳炎などでは、さまざまな認知障害を呈するものの、明らかな統語処理障害を呈さないことを報告した。 以上より、統語処理には左前頭葉を中心とした3つの脳内ネットワークが関与していることが明らかとなった。この結果は、脳では基本語順が3種類の情報処理により認識されてるいことを暗示する知見である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、文処理過程において、人間の脳が基本語順をどのように認識しているのか、その認識機構を神経言語学研究により解明することである。具体的には、人間は文法機能・意味役割・格助詞の脳内情報処理に基づき基本語順からの語順変化を認識するという仮説を検証することが目標である。24年度は当初の予定通り、健常者や脳損傷患者を対象とした脳機能マッピング法により研究を進めることができた。また、今年度の研究で得られた「統語処理関連領域の脳内ネットワークが3つに分かれる」という知見は、「基本語順が3つの情報に基づき処理されている」という当初の仮説に矛盾しない知見である。
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今後の研究の推進方策 |
今後は3つの統語処理関連領域の脳内ネットワークに関して、それぞれの役割を明らかにすることを目標とする。 具体的には、文法機能・意味役割・格助詞に関する情報が、3つの脳内ネットワークにおいてどのように処理されているのか、脳機能マッピング法により突き止める。健常者を対象としたfMRIにおいて、統語処理関連領域の脳内ネットワークを関心領域とした信号変化量の解析を行う。得られた知見は国内外の学会や論文で発表する。 限定的な脳損傷を呈した患者の神経心理学的検討に関する症例報告、特殊な言語処理障害・認知機能障害を呈した症例報告に関して、学会発表と論文発表を行う。 これにより、本研究の目標である、「文処理過程において、人間の脳が基本語順をどのように認識しているのかその認識機構を神経言語学研究により解明すること」を達成する。
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次年度の研究費の使用計画 |
健常者対象のfMRI実験のための研究費として、PCなどのデータ解析機購入、数理計算ソフト購入、統計処理ソフト購入、DVD-R、HHD などの記録メディア購入、実験参加に対する謝金、に使用する。 得られた知見の報告のための研究費として、国内外の学会での発表にかかる交通費、宿泊費、日当、発表用媒体購入に使用する。 論文執筆のための研究費として、図表作成ソフト購入印刷費、複写費、英文校正費、投稿費、などに使用する。また、参考資料としての図書費を使用する。
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