25年度は前年度に引き続き,基本語順の認識機構の解明に迫るための基盤として、統語処理の脳内ネットワークの同定を目標とした。実験では、21名の左前頭葉の神経膠腫患者を対象に、fMRIと「絵と文のマッチング課題」を施行した。さらに7名の健常者を含めて解析を行った。各患者群の脳活動変化パターンに基づき、統語処理に関与する脳内ネットワークを機能的に特定した。健常者では左前頭側頭葉の脳活動が認められた。左運動前野外側部に脳腫瘍がある患者群では、左下前頭回・左下頭頂溝・補足運動野・右前頭側頭部の脳活動が増強した。これらの脳領域は、脳梁と右弓状束/上縦束を介したネットワークを形成した。一方、左下前頭回に脳腫瘍がある患者群では、左運動前野外側部・角回・舌状回・小脳の脳活動が増強した。これらの脳領域は、左弓状束/上縦束を介したネットワークを形成した。また、これら患者では、左下前頭回眼窩部、左側頭葉の脳活動が減弱した。これら脳領域は外包/中縦束を介したネットワークを形成した。これらの脳領域における脳活動の時系列データに対して、偏相関解析をおこなったところ、上記ネットワークは健常者の脳活動において機能連関があることが分かった。以上より、統語処理には3つの脳内ネットワークが関与しいることが明らかとなった。 このネットワークが文法機能、意味役割、格助詞のそれぞれのスクランブル文においてどのように活動を変化するのかfMRIにより確認した。その結果、文法機能のスクランブル文により、左前頭葉の脳活動が有意に増強することがわかった。一方、意味役割や格助詞のスクランブル文では有意な脳活動増強は確認されなかった。このことは、文法機能が基本語順を規定する情報として脳内で処理されていることを示唆する。
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