研究課題/領域番号 |
24720194
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
氷野 善寛 関西大学, 東西学術研究所, 研究員 (80512706)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 中国語 / 中国語教材 / 中国語教育 / 中国語研究 / データベース / ディジタルアーカイヴズ |
研究概要 |
本研究は中国語教育における基礎語彙の通時的な扱いについて明らかにすることを目標としているが、本年度は研究の準備段階として、歴史的にどういった教材があるのかを明らかにするために1870年以降の日本・中国・欧米で刊行された中国語を学習するための教科書や辞書など中国語教材全般に対する調査を行った。中国語教材を網羅的に調査するために多くの中国語教材を所蔵していると考えられる国内のいくつかの図書館や博物館についてその所蔵状況の調査を実施した。特に関西大学の東西学術研究所が所蔵している関連書籍については、戦前期の中国語教材が多く収集されているにもかかわらず、これまで目録が公開されたことがなく、その実態が不明であったこともあり、重点的に調査を行い、「関西大学東西学術研究所所蔵の中国語教材目録(1868-1950)」にまとめた。結果多くのこれまで発表された中国語教材の目録にはない教材を発見することができた。中国語教材を調査し目録を作成するのは、上述の理由以外に今後日本と外国(主に中国・ヨーロッパ・アメリカ)における中国語教育の全体像を明らかにし、中国語に対する認識、立場の違いをより明確にすることができると考えるためである。今後も並行してこの種の調査を進め1870年以降の中国語教材の全体像を明らかにしていく。また当時の中国語教材の全体像を明らかにするために、中国語教材に関する書籍広告についての調査も行っており、データを集積している。以上のことから当初の研究目標を達成したと考えている。次に収集したデータを基礎資料として、インターネット上に公開することを念頭に置いた中国語教材のデータベースのシステム設計を行った。その設計をもとにプログラムの開発を行い、完成したデータベースを「中国語教材データベース」として公開した。データの登録作業については上述の調査結果を反映しており、現在も進行中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究の準備段階として1870年代以降の日本・中国・欧米で刊行された中国語教科書や辞書などを中心に中国語教材の調査及び基礎的な目録の作成を行うという点については、伝統的に中国語教材を多く収集する図書館、博物館等の目録調査や実地調査を行い、日本国内における中国語教材の調査を中心に概ね達成できているが、調査を進めるほどこれまで未知だった教材が明らかになり、今後も継続して作業を進めていく必要があると感じた。特に関西大学図書館や個人文庫、東西学術研究所の蔵書には戦前の中国語教材が多く収集されており、重点的に調査を実施した。東西学術研究所の調査結果はこれまで目録が作成されたことがなかったこともあり、2013年「関西大学東西学術研究所所蔵の中国語教材目録(1868-1950)」『東西学術研究所紀要46輯』にまとめた。同時に収集した中国語教材の目録データからインターネット上で閲覧できるデータベース(以下DB)を利用するためのシステムの設計を行い、その基幹となるプログラムの開発を委託し、インターネット上にその試作版となる「中国語教材データベース」を公開した。このDBの最終的な到達点としては、「中国語教材DB」に加え各教材で学習する語彙を集積するデータベースである「語彙リンクDB」がリレーショナルでつながり、中国語教材と学習基礎語彙の総合的なDBとして機能させることである。さらに教材DBに教材が刊行された年代・地域・執筆者といった教材周辺の情報を集積し、語彙リンクDBと関連づけることで、どの教材でどういった語彙を学習してきたのかをデータベース化することを可能とするものである。この点については、今年度の計画予定であった教材DBを中心とした構築まで順調に進んだ。語彙リンクDBについては語彙データがまだ完全ではなく、次年度以降の課題としたい。以上の点からおおむね順調に進展していると評価する。
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今後の研究の推進方策 |
日本国内における中国語教材の調査と所蔵状況に関してもまだまだ未知のものがあると考えられるため、この方面について継続して調査収集に努める。更に今後は主に海外における中国語教材の調査や所蔵状況を集中的に調査する。特に今年度はこれまで具体的な調査があまり行われていないアメリカにおける中国語教材の所蔵状況や教材自体に関しても調査を重点的に行いたいと考えている。これは『華語ピン字妙法』や『Spoken Chinese』のように語彙学習にスポットを当てた中国語教材に、アメリカ人が執筆に関わったものが多く、英語教育において基礎語彙に関する議論が盛んに行われた1900年代~40年代に、中国語教育にも導入され、それが間接的に日本の中国語教材に対して影響を及ぼしたと仮説を立てているためである。そのためアメリカ人が編集に関わった中国語教材やアメリカで刊行された中国語教材について重点的に調査し、いかに中国語教育において、語彙教育のメソッドが確立されていったのか、またそれが日本の中国語教育に及ぼした影響があるのかないのかを調査し、書誌的な調査から徐々に本研究のテーマである通時的な中国語の語彙教育、とりわけ基礎語彙に関して研究調査に視野を広げていくことを目的としている。またこれらの研究と並行して、データベースについても質的あるいは量的な補完を行っていく。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度は、主に海外における1870年頃から1950年頃までの中国語教材の所蔵状況を集中的に確認する。特にこれまで具体的な調査が行われていないアメリカの中国語教材の所蔵状況について確認作業を行う。また同時にアメリカにおける当時の中国語語彙教育についての情報収集もこの段階で行う。プリンストン大学、カリフォルニア大学、ハーバード大学など歴史的に中国学や中国語教育が盛んな大学には中国語教材に関連する多くの書籍が所蔵されていると予想され、これらの大学の付属図書館における関係図書の所蔵状況を集中的に確認することでアメリカの中国語教育の状況を明らかにしたいと考える。これらの作業はアメリカの中国語語彙教育を研究する上で必要不可欠な作業である。基本的な作業は日本国内で各大学の図書データベースやこれまで刊行されている魚返善雄 1940「アメリカの支那語研究」や六角恒広1993「欧米人著作中国語関係書書目」等の欧米の中国語教材の目録を基本資料として行う。必要に応じて実際にこれらのアメリカの図書館を訪問し日本での調査の補完作業を行う。国内についても前年度に調査を行った図書館以外にも中国語教材を収集している図書館があるため、引き続き目録及び現地調査を行いたいと考えている。同時に、データベースについては上記の調査を随時反映させ、データを増補すると共に、データベースで得られた情報を視覚的に表示できるような試みを行う。またいくつかの主要な教材をピックアップし、中に含まれている中国語の語彙を抽出し、どういった中国語を学習しているのかを調査する。その上で、既設の中国語データベースと前年度構築した中国語教材データベースを連携させ、基礎語彙を集積できるプログラム及びデータベースを追加で開発し、通時的な基礎語彙を扱ったデータベースを構築し研究の一助とする。
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