本研究では、人間のコミュニケーションの成立過程の本質の一端を明らかにすべく、逐次通訳における通訳ノートを分析した。 そこで、通訳ノートを用いる逐次通訳の成立プロセスを協力モデルの枠組みから考察し、実験を行い、認知語用論の観点から検証した。聴取局面では、原発言の一般的な概念表示に動機づけられた意味論レベルで処理しており、最小命題の主要素を構成する概念表示の断片を構造化して通訳ノートに表記していることがわかった。また、訳出局面では、通訳ノートの表記をもとに通訳者が曖昧性除去や、アドホック(状況に合わせて調整した)概念構築、飽和、自由拡張といった語用論操作を行って訳出していることが明らかとなった。
|