研究課題/領域番号 |
24720205
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
白井 純 信州大学, 人文学部, 准教授 (20312324)
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キーワード | キリシタン版 / 言語規範 / ひですの経 / 講義要綱 / 活字 / 印刷 |
研究概要 |
本研究の目的は、イエズス会を中心とするキリシタン版の日本語の規範性について、新出資料『ひですの経』(国字印刷本)をもとに再検討することにある。日本語資料としてのキリシタン版が有する規範性は、出版を重ねるごとにそれが徹底し成長するという顕著な特徴をもつ。このことはキリシタンの日本語学習とその成果として広く認められてきたが、キリシタン版としては末期である1611年に出版された『ひですの経』には、そうした規範性の蓄積を裏切る特徴が多い。 今年度は昨年度に続いてイエズス会の写本を調査し、『講義要綱』の特徴を『ひですの経』と比較した。『講義要綱』はイエズス会日本コレジヨ(神学校)の教科書であり、日本イエズス会内部で使用されている日本語と同等もしくはそれ以上の規範性をもつと思われるが、用語や表記の特徴に『ひですの経』と共通する部分が多く、活字本の規範性に比べて未整理な部分が目立つ。 日本イエズス会にとって『ひですの経』の日本語は問題視されるものではなく、それ故に允許状や出版許可状という正規のキリシタン版としての体裁を備えた活字本として出版された。しかし印刷にあたって必要な用語や表記の統一が徹底せず、他のキリシタン版と比べて著しい規範性の低下を招いたのだろう。逆に言えば、日本語の規範性は単に理念上のものではなく、活字で出版するという物理的・技術的な過程に相当部分が含まれており、ましてや日本イエズス会内部の日常言語に対する共通理解ではなかった。 このことは日本イエズス会の問題に留まるものではない。文献を言語資料として利用する際には、写本に対する印刷本という位置づけではなく、写本や整版に対する活字本という視点が必要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
『ひですの経』の特徴のうち、日本イエズス会の活字本の言語規範に外れる特徴を、日本イエズス会コレジヨ(神学校)写本『講義要綱』と比較し、共通する特徴が多いことを確認した。 その成果をこれまでの研究成果に含め、「キリシタン語学全般」(豊島正之編『キリシタンと出版』八木書店2013)、「キリシタン文献の「傍流」 国字本『ひですの経』からみた『妙貞問答』(末木文美士編『妙貞問答を読む ハビアンの仏教批判』宝蔵館2014)、講演「キリシタン版の印刷技法」東洋文庫東洋のコディコロジー「非漢字文献」─文理融合型東洋写本・版本学(講習会)─(東京・東洋文庫)2013.10.18、講演「キリシタン版の印刷技法と言語規範」北海道大学国語国文学会平成25年度大会(札幌)2013.7.13、などで発表したので、研究の目的についてはおおむね順調に進展しているものと認識している。
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今後の研究の推進方策 |
日本イエズス会の言語規範を探るためには、規模の大きな写本『講義要綱』の精査が不可欠であり、ラテン語原本との対応関係にも注意を払いつつ研究を推進する。 正式な活字本に象徴されるキリシタン版の言語規範とは別の日本語利用の実態が、内部利用という非正式な写本に現れることが予想される。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初計画していた資料整理について、毎年度小規模に実施するより予算をまとめ一括して実施するのが研究遂行上有効という判断に至り、今年度は執行しなかったため、次年度使用額が生じた。 前年度の残額は今年度の資料整理として利用するほか、今年度は調査および学会出張旅費、パソコンおよびプリンタの購入を予定している。
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