近年発見されたキリシタン版「ひですの経」は、規範性が強いとされるキリシタン版の一般的傾向に反する文献であるが、音韻、語彙、表記などの言語的特徴を検討した結果、「日本のカテキズモ」「講義要綱」「妙貞問答」などの同時代の日本イエズス会の日本語写本と同様の傾向が認められることを確認した。 「ひですの経」は校正が不十分なため印刷物としての統一を欠くが、言語的特徴の特異性も写本段階の日本語の水準に対する印刷物としての校正の不足によるものとみれば不自然ではない。このことから本研究は、日本イエズス会の言語規範とされてきた特徴のうちに、出版段階での校正と調整に強く依存する要素があったと結論した。
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