研究課題/領域番号 |
24720217
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
前澤 大樹 名古屋大学, 文学研究科, 研究員 (60537116)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 文法 |
研究概要 |
次項に述べる経緯から、昨年度はコーパス調査及び先行文献の収集・検討を通した問題点の整理と分析の理論的側面の検討・構築に重点的に取り組んだ。 コーパス調査については、不連続AP構文(DAPC)を許す環境の類型と、DAPCの生起環境に関する一般的制約を把握するため、実例の包括的収集を試みた。現在該当例の抽出・整理と一般化の導出に向けて作業中であるが、現段階で、前者については、従来この構文を許さないとされるcapable等の形容詞の例が若干確認できており、同構文の形成が文献中で言われるより広汎な現象であることが示唆される。後者についても、tough/W類の場合、similar類と同様に不定冠詞以外の限定詞/数量詞と共起する例が系統的に見られ、またDP全体も叙述位置には限られないことが確認された。但しこれらの類では、there構文以外に確実な例が見つかっておらず、制約をsimilar類の場合と同一視できるかに疑問が残る他、少数ながら数詞を伴う例が存在するため、制約を数詞の意味内容に関連付ける当初の分析は修正を迫られる可能性があり、更なる調査とデータの検討を要する。 研究の理論的側面については、形容詞修飾の一般的機構まで視野を広げた考察を行うこととした。特にtough構文主語に関しては、強限定詞の生起がNPの再構築を阻害するというSportiche等の観察から、主語のDはNP/NumPとは独立に主節で導入されるという結論を得た。また形容詞修飾一般について、 DP内形容詞の粗い階層性を指摘するTruswell (2009)に基づいてCartography的アプローチを退け、叙述形容詞への還元を企図するAbney/Keyne流の分析を追求した。特にEscribano (2004)の修飾理論の方向性は有望に思われるが、選択特性に関する問題が指摘され、更なる検討と精緻化を要する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
主としてデータの収集に関して不首尾であった点が多々あるため、全体としても特に成果の発表の面に於いて当初の予定より大きく遅れることとなっている。 昨年度中に1回予定していた海外での聞き取り調査が日程を取れずに実施できなかった他、国内での聴き取りに関しても、纏まった数の情報提供者を集めることができなかったため、少数の研究者等との遣り取りに止まり、データ収集としては小規模のものとならざるを得なかった。加えて、聴き取りによって採取したデータは、tough構文に於ける再構築やDAPC内に生起する限定詞/数量詞に関するものであったが、予期していた程の一貫性を示さず、そこから有意味な一般化や傾向を引き出すことは困難であった。また、W類形容詞構文に於ける主語の生起位置を示すデータについては、当初から予想していた通り判断の対象となる例の作成が難しく、現段階では有効な診断法を考案するに至っていない。 更に、コーパス調査に於いては、前項で述べた通り該当例を幅広く拾い出すことを試みたが、検索式で絞り込んだだけでは、無関係なものを多く含む膨大な数の例がヒットしてしまう。一例ずつ目で見て確認できる限界は数万件程度なので、Perlでスクリプトを書いて該当例への絞り込みと現れる形容詞語彙の抽出を試みたが、目下のところ有効に働くものは完成していない。後者については網羅的ではないにせよ或る程度成功したが、新たな発見に繋がるような結果は得られず、取り零した語彙の確認が求められる。 これらのことから、当初予定したようなバランスの取れた進行が叶わず、分析の構築にも遅れを来している。尤も、データ採取に不足があった分、文献の収集・検討にと理論的考察に努めたため、問題の整理と可能な分析の絞り込みは進捗している。しかし、成果の取り纏めは予定より遅れた上に不十分なものとなり、論文や研究発表が掲載・採用されるには至らなかった。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度重点的に取り組んだ理論的考察によって、分析の方向性はかなり絞られてきているため、不足しているデータを速やかに収集してより充実した結論を導くことで、予定の進行とは異なるが、昨年度分を含め成果として発表していきたい。 tough構文の分析に関しては、再構築可能性から主語のDが主節で導入されるという結論を得たが、このような派生の理論的実装として、目下、NPの側方移動(Nunes (2004)他)、NPの主節での再投射(Horstein & Uriagereka (1999)、Chomsky (2008)等) (と不定詞節の外置)、という2つの可能性を検討中である。tough構文の側方移動分析はSasaki (2009)等に例があるが、側方移動は如何にその適用を適切に制限するかという点で不明瞭な部分があり、更なる検討を要する。本研究では寧ろ、現段階で有望と考える後者の可能性を追求していきたい。再投射という操作の仮定は、前々項で述べたEscribanoの修飾理論に於ける問題点を解決できると考えられるため、DAPCを含めた形容詞修飾構文一般の分析の観点からも望ましく思われることに加え、関係節による修飾との統一的な扱いも見込むことができる。関係する理論的提案及び現象を更に検討し、具体的分析の構築に努めたい。 これらの検討・分析を効率的に進めるためにも、新たなデータの収集には力を入れたい。聴き取り調査については、海外に赴いて2回実施する他、国内でも十分な数の情報提供者を集め、組織的に実施する方策を改めて検討する所存である。コーパス調査に関しては、網羅的なリストの取得を一旦措き、先ずは全体的傾向を把握できるような効果的な絞り込みを行う方法を模索することとする。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度研究費の用途を分類すれば、(i)書籍、(ii)コーパス関連費用、(iii)国内聴き取り調査にかかる費用、(iv)海外聴き取り調査にかかる費用、(v)成果の発表にかかる費用、(vi)データ収集等の補助者への謝金、(vii)その他雑費、となる。 (i)については、関係する諸構文・現象についての先行研究、言語理論一般に関する文献に加え、今年度は特にデータの採取源となるような一般書籍の割合を大きくすることとする。(ii)は、コーパスの年会費である。(iii)については、前項で述べたように十分な数の情報提供者を確保し、適正な謝金を支払うものとする。アンケート等の印刷費用もこれに含める。(iv)も同じく情報提供者への謝金・印刷費を含み、加えて旅費を計上する。当初の計画と異なり、昨年度は海外での調査を行えなかったため、今年度は夏季と春季の2回実施を予定しており、昨年度未支出の費用を合わせてこれに充てる。(v)は印刷費や郵送費等に加え、学会発表の場合には開催地までの旅費も計上する。海外の学会で発表する際は、なるべく(iv)の聞き取り調査も同じ機会に行い、経費の抑制に努めるものとする。データの収集・入力・整理等に際しては、(vi)に挙げたように謝金を支払って補助を求めたく思う。(i)の一般書籍からのデータ収集の際は、スキャニングとOCRの適用を、(ii)のコーパス調査では、どうしても例を絞り込めない場合に該当例の抽出や分類を、(iii)・(iv)の聞き取り調査の際は実施の際の補助とデータ入力を依頼する予定である。(vii)については、通信費や文具等、上記に含まれない印刷費等が主である。研究遂行のための諸機器は基本的に昨年度研究費で購入済みのため、これについて今年度大きな支出の予定は無い。
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