研究概要 |
本研究の主たる目的は,日本人英語使用者コーパス(JUCE)を利用し,国際英語としての「日本英語」の語用論的特徴を探ることである。JUCEとは,日本人英語使用者,即ち「日本語を母語とし,日本で小中高の教育課程を経て,仕事で英語を使用するもの」(藤原 2006, 2014; Fujiwara 2007)により用いられた英語の集積データである。当コーパスの探索的分析を施行し,「日本英語」の語用論的特徴の同定を試みた。 上記の探索的分析により見出された「日本英語」の主たる潜在的な語用論的特徴は次の通りである;1) 日本人英語使用者は母語話者よりも相対的に少ない種類の語彙を使用し,名詞の場合,定冠詞とともに同じ名詞を反復使用する傾向が見受けられる;2) 法助動詞の使用において,日本人英語使用者はshould,mustという比較的意味合いの強い法助動詞を頻用する傾向がある。 また上記の使用傾向は,過去の日本人大学生等を対象とした「学習者」コーパス研究においても継続的に指摘されており,「日本文化」に根差す定型性,また社会的・伝統的義務認識の強さを示す特徴と考えられる。すなわち内円英語話者の英語とは異なり,かつ学習段階にある日本人学習者と習熟段階にある日本人英語使用者の英語に通低し,かつ日本語,および日本文化を背景とすることが高いと推定される要素,換言すれば日本語および日本文化を基盤とする「日本英語」の特徴を一定程度示していると言える。 本研究は,現状の無理に英語母語話者の鋳型にはめこもうとする単一言語話者ベースの英語教育から,日本人英語使用者を目指す二言語併用者ベースの英語教育へのシフトの議論を喚起する意味で,大変意義深いものと考える。なお本研究プロジェクトの成果は,国内外の学会で発表された上,日本学術振興会の研究成果公開促進費を受け,書籍,『国際英語としての「日本英語」のコーパス研究』(東京:ひつじ書房)として公刊された。
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