本研究は、1.シラバス作成・実施、2.教師の現状と課題の整理、3.プログラムの構築、という3つのステップに沿って進めてきた。最終年度は、プログラム構築に向けて韓国における日本語教師を取り巻く現状と音声教育に取り組む際の困難点を探るために、2016年1月から2月にかけて、韓国の大学の日本語教師20名(日本人教師7名、韓国語教師13名)を対象に半構造化インタビューを実施し、分析した。また、3月に質問紙およびweb調査によるアンケート調査を行い、35名から回答が得られた。分析の結果、以下のことが明らかになった。音声を積極的に指導しにくい理由としては、まず、韓国の大学の評価システムがあげられる。相対評価システムの中では、音声は評価の対象になりにくいため、音声に対する学習者の動機が低下しているという。そのため、学習者はやさしくて単位が簡単に取れるような授業を好み、教師や学習者双方にとってハードルの高い音声授業に対するニーズは高くない。また、社会的・経済的変化により、日本語を受講する学生数が減ったことも音声教育に積極的に取り組めない理由の一つとして指摘されている。教養科目の場合、初級レベルの授業がほとんどであり、時間的な余裕がないため、積極的に音声教育を取り入れる場がないという指摘もあった。このような状況の中で、教師たちは上記の問題を解決するために様々な工夫をしながら音声教育に取り組んでいることも明らかになった。音声教育の現状を改善するために必要なこととしては、教師の実践(ノウハウやリソース)が共有できる「場」・研究と実践を結びつけることができる「場」の形成、音声教育に対する教師の意識変容、教師間の協働、授業間の連携、普段の授業で使える韓国独自の音声教材の開発、学習者の積極的な参加を促すための活動やタスクの開発、教授能力をブラッシュアップするための定期的な教師研修などがあげられた。
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