本研究の目的は、日本語学習者のパソコン(以下PC)を用いた作文過程を明らかにすることである。平成25年度は、約10名のデータ収集、プロトコル作成、質的分析、量的分析を行った。25年度は24年度に引き続き、中国語母語話者の分析が主であった。 まず、中級の中国語母語話者の1回の作文過程において発音と表記方法が改善している傾向があることを見出し、質的に分析した。中国語母語話者は想起した漢語を手書きの場合はそのまま書けばよい。しかし、PCで入力する際には発音を正しく習得した上で表記と一致させて入力させなければならない。PCを用いることで学習者は自分の発音や表記の誤りに気づくことができ、誤りを繰り返し修正することで正しい発音と表記を身に付けており、一つの作文を書く短い時間内であるとはいえ、手書きの作文過程とは異なる発達が見られた。 次に、上級の中国語母語話者の作文の長さと時間を、PCを用いた場合と手書きの場合で比較した。PCを用いたほうが作文の長さは短かったが、所要時間に差は見られなかった。PCを用いたほうが作文の長さが短かった要因として考えられるのは、手書きの作文では上級学習者であれば漢字で書けるであろう語彙がひらがなで書かれていたことと、PCでは内容や構成を再検討するために不要な部分を削除するのが容易なことである。作文過程を見てみると、手書きでは段落を書き直したり段落や文の順番を変えたりというような大幅な削除や修正をするということはほぼなく、語彙単位の修正が多かったが、PCの場合はコピー&ペーストを用いて文を移動させたり、段落ごと削除して再度書いたりするような大きな修正があった。作文の長さに差があるにも関わらず所要時間に有意差が見られなかった要因は、PCを使うことで誤りに気付いたり、潜在化していた誤りが表出したりしたことでその修正に時間がかかったためであると考えられる。
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