研究課題/領域番号 |
24720238
|
研究種目 |
若手研究(B)
|
研究機関 | 国士舘大学 |
研究代表者 |
栗原 通世 国士舘大学, 公私立大学の部局等(21世紀アジア学部), 准教授 (40431481)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
キーワード | 日本語音声習得 / 長母音 / 音節構造 / 中国語北方方言話者 / 日本語学習者 / 範疇的知覚 |
研究概要 |
本研究は中国語を母語とする日本語学習者個々人の長母音知覚と産出の状況を記録し、その結果に基づいて中国語母語話者全体の長母音習得過程を明らかにすることを目指している。その上で、学習者の長母音習得過程に適合する音声教育の考案を大きな目標としている。 日本語学習者による長母音習得には語のアクセント型や母音の語中位置が関係するという研究成果が得られているが、語の音節構造の影響については未だ十分に解明されていない。そこで、本研究は語の音節構造の関与という観点から、中国語を母語とする日本語学習者の長母音知覚及び産出の傾向を把握するよう努めている。 平成24年度は次年度に実施する知覚と産出両実験の準備段階であり、特により的確なデータが得られるような刺激語の音節構造の選定に時間を充てた。具体的には、音声が入力され処理される段階である知覚面に焦点を絞り、母音長短の範疇的知覚の検討を進めた。対象は中国語のうち北方方言を母語とする日本語学習者である。3あるいは4モーラの無意味語における語頭位置母音の長短聴取の傾向を検討するため、音節構造が異なる三つの語を用いて実施した同定課題と弁別課題の結果を分析した。検討対象としたのは語頭位置母音であるが、語末位置に長母音を含む場合と短母音や撥音を含む場合では、判断に違いが生じ得ることが明らかになった。すなわち、語末位置に長母音がある語における語頭長母音の検出には持続時間がより長い母音が必要であるという結果であり、これは、従前の研究では指摘されてこなかったものである。 知覚時の母音長判断に語の音節構造の影響が見られるということは、今後、同様の研究を遂行する際に考慮すべき新たな要素を示した点に意義があると考える。また、日本語学習者の母音長短の識別力を向上させるための音声教育実施においては、提示する語の種類を現状よりも広げる必要があることを示唆するものである。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
知覚及び産出両実験で用いる刺激語の音節構造については、本年度の成果よりかなり明確になった。しかしながら、想定していなかったような被験者データが出現し、分析に計画外の時間を要してしまった。そのため、年度当初に予定していた次年度実施予定の実験に用いる刺激語の決定と録音までは進められなかった。
|
今後の研究の推進方策 |
平成24年度の研究成果を踏まえ、知覚実験・産出実験を実施する。なお、学習者の日本語産出には、各学習者の日本語音の受容と理解の過程が大きくかかわっていることが想定されるため、本研究では特に学習者による日本語母音長の知覚傾向の把握に軸足を置いた検討をすすめる予定である。 次年度は実験で用いる刺激語を早急に決定する。その際には本研究が着目している語の音節構造に加え、従来長母音習得との関連性が指摘されている母音内部のピッチ変化、検討対象とする母音の語内部における位置も考慮する。また、実験に参加すると想定される日本語学習者の日本語能力に応じた語を選定することも考えている。 知覚実験の施行と結果の分析を効率的に行うために、心理学実験用のソフトウェアを使用したコンピュータ制御可能な実験プログラム構築を目指す。収集したデータより長母音の誤聴率を指標とした検討を進め、実験に参加予定の中国語母語話者全体と個々人の長母音習得状況を整理していく。 次年度は知覚実験のデータ収集と結果の分析を優先的に行う予定であるが、知覚実験参加者から母音長短の産出データも同時に集めていく。産出データについては、知覚実験の結果を検討後、徐々に分析を進める予定である。
|
次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度の研究において次年度使用額が発生したのは、年度当初に計画していた刺激音声の録音と作成を行うことができなかったことによる。 平成25年度の研究費の多くは実験実施のために用いる。まず、より質の高い刺激音声を作成するために、プロの声優やアナウンサーに録音を依頼するための費用が必要となる。次に、実験実施のための反響が生じない録音室のレンタル料と30名前後の実験参加者に対する謝金として研究費を充てたい。さらに、実験プログラム作成等の助言を東北大学をはじめとする研究機関の研究者から得るために、直接、各機関を訪れる経費が必要である。その他、データ分析のために必要な音声習得に関係する文献や書籍および文献複写、データ分析のためのソフトウェアや記録媒体、より効率的に研究を進めるためのタブレット型コンピュータ、実験記録の整理を依頼する大学院生や学部学生への謝金に研究費を用いる。年度後半には、研究成果の一部を公表するために学会・研究会への参加を計画しているが、そのための旅費や諸経費も必要である。
|