研究課題/領域番号 |
24720238
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研究機関 | 国士舘大学 |
研究代表者 |
栗原 通世 国士舘大学, 公私立大学の部局等(21世紀アジア学部), 准教授 (40431481)
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キーワード | 長母音 / 短母音 / 知覚 / アクセント型 / 音節構造 / 音節位置 / 中国語北方方言母語話者 |
研究概要 |
平成25年度は国内の大学に在籍する中国語母語話者22名に、日本語母音の長短識別を問う知覚実験を実施した。実験参加者には短母音と長母音の産出実験も併せて行った。日本語学習者による短母音と長母音の習得状況の記述は、従前の研究ではCVCVRとCVCV、CVRCVとCVCVのように検討される母音以外は自立拍という条件のデータに基づく場合が多い。本研究では長・短母音の習得に関して学習者の現状により一層合致するデータを得ることを目標の一つとしていることから、実験では分析する母音以外の音節に促音・撥音・長音を含む刺激語を用いた。 収集データのうち北方方言母語話者19名分の知覚実験の結果について、短母音が長母音として誤って判断(誤聴)されたケースを主に分析した。刺激語のアクセント型、音節構造、当該短母音の語内における音節位置という観点で誤聴傾向を検討した結果、語頭と語中位置では、高い音(H)の拍で特に後続する拍が低い(L)拍の場合、短母音が誤って判断される傾向が強いことが確認された。語末位置ではL拍短母音の誤聴が多いという結果を得た。音節構造については自立拍が続く構造(CVCV)よりもCVNのように撥音の前の短母音が誤聴されやすいことが分かった。音節位置については明確な結果は得られなかったが、非語末位置における誤聴の方が語末位置よりもやや多いものと思われる。 短母音の誤聴には音響的な要因の関与が十分に考えられる。すなわち、高い音は一般に長く認識されやすく、また撥音を構成する鼻子音は母音と類似のフォルマントパターンをもつために撥音の一部が母音として判断されやすいといったことである。短母音が誤聴されやすい音環境は、裏を返せば長母音聴取が容易な環境を示すと思われる。したがって、平成25年度に示した短母音聴取が難しい条件というのは、長母音習得の難易を音環境面から考察していくための判断材料と言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
予定通りに平成25年度は中国語母語話者の日本語発話を録音し、短母音と長母音の産出データを得ることができた。産出データの分析作業の実施を当初は予定していたが、データのファイル化作業にあたる学部生・大学院生を十分に確保することが難しかったことと、1~2月にかけての降雪による交通機関の遅延・運休の影響によりファイルのデータ化に必要な作業時間数を確保することができなかった。このような理由で産出データの分析作業が次年度にずれ込むことになったため、研究の進度がやや遅れていると言わざるを得ない。
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今後の研究の推進方策 |
まず、平成25年度に実施した知覚実験のデータのうち、長母音の知覚判断の結果について、語のアクセント型、音節構造、当該長母音の音節位置の三つの観点から分析を行っていく。その際、知覚結果を量的に分析するのではなく、実験参加者個々の習得状況を把握するため、質的な分析を行う。そのため、質的な分析手法である、Implicational Scaling(含意尺度法)を用いた検討を進めていく。この結果を日本音声学会をはじめとする関係学会の全国大会や例会・研究会等の場で発表することを計画している。 次に、産出データのファイル化作業を終わらせ、中国語母語話者による母音の長短産出の実態解明を進めたい。本研究は母音長短の知覚能力と産出能力の関連性も検討事項の一つとしているので、特に知覚実験の成績が良い実験参加者と振るわなかった実験参加者について、優先的に産出データの分析を行うことを考えている。日本語教育の素養がある学部生や大学院生に依頼して、産出データに含まれる短母音と長母音の発話の自然さを判定してもらう予定である。なお、知覚および産出データの分析過程で、変則的な様相を見せる個別データがある場合は、平成25年度に実施した実験を補足的に実施する可能性がある。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度使用額が生じた理由としては、研究成果の発表等を行う会場が近郊であったことや、予定していた資料収集などが公務スケジュールの都合でうまく行えなかったため、予定よりも少ない金額で済んだことが挙げられる。また、実験参加者や収集データのファイル化作業にあたる人員も十分に集めることができなかったことも次年度使用額が生じた理由の一つである。 平成26年度の研究費の使途として、既に収集しているデータ整理のための人員や追実験の参加者への謝金が挙げられる。また、研究成果発表・報告の準備のために研究費をあてる必要がある。具体的には、実験結果や分析手法について音声研究者・日本語教育専門家等から直接意見をうかがうために東北大学や神戸大学をはじめとする研究機関に出向くことや、国立国会図書館(京都府)での資料収集作業実施のための費用である。また、国内外の音声学・音声教育関連の書籍購入のための費用や文献複写費、データ管理のための記録媒体の購入も計画している。平成26年度後半には口頭発表や論文投稿という形で研究発表を行う予定であるので、そのための旅費や英文校正・校閲費用も必要である。
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