研究課題/領域番号 |
24720242
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
鄭 京姫 早稲田大学, 日本語教育研究科, その他 (70598763)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 国際情報交換 |
研究概要 |
【研究目的】本研究は、言語能力を生きることという文脈で捉え、「母語」「母国語」「外国語」という「言語の境界」を乗り越えることの意味と、言語教育をアイデンティティ形成の観点から捉えなおすことの重要性を明らかにすることを目的としている。特に多様な言語背景を持っている中国朝鮮族日本語学習者の言語意識と言語応用能力に関するライフヒストリーにより、固定的に捉えられているアイデンティティから流動的で多面的な観点を考察することで多言語化が進行する日本語学習者への支援のありかを考えるきっかけになると同時に、日本語教育の文脈で複言語主義の課題と展開の基盤となる。 【研究方法】言語をアイデンティティの観点から捉えることの重要性を縦断的な文献調査を行い、理論面の基盤構築を行うための文献の収集・調査を行った。また、ライフヒストリーインタビューにより中国延辺にある大学で日本語教育を専攻している中国朝鮮族の学生10名、韓国ソウルとその周辺の大学で日本語を学びながら生活している中国朝鮮族18名、秋田大学に短期留学生として勉強している1名の語りを聞くことができた。なお、文字起こしと同時に分析、および考察、場合によって追加インタビューなどを行った。 【研究成果】現在、これらのインタビューにより、明らかになったことは、「母語」「母国語」「外国語」という「言語の境界」は、個人の言語意識が重要であること、その意識は自己評価を高め、自分の可能性につながっていることであった。さらに、その能力は言語ができる/できないといった能力を超え、生きる力になっていることが明らかになった。また、今日、ニューカマーと言われる人たちの増加し、多言語多文化化が進行している日本の社会において多様な言語背景を持つ中国朝鮮族の語りは示唆することが多いと期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初、初年度は、中国の大学で日本語を専攻する中国朝鮮族日本語学習者とインタビューを予想していた。実際、2012年8月に延辺を訪れ、延辺大学で日本語教育を学んでいる学生たちとインタビュー調査を行うことができた。その時に協力してくれた協力者の何人かが韓国と日本に留学をすることとなり、追跡インタビューも可能となった。 なお、当初は中国朝鮮族学習者のライフヒストリーに注目したが、調査を進める中で彼らの言語意識というものは、その背景と言える「家族」との物語があった。つまりそれは多様な言語背景の意味であり、それにより、考察や分析がより深いものになると期待できると考える。 さらに、研究に関して指導教授を始め、研究室の仲間、質的調査法研究会のメンバーにアドバイスをもらい、意見交換ができた。 その上、インタビューの内容である「自身の複数言語能力をどのように考えているのか、どのように応用しているのか、また、複数の言語を使用する中で日本語をどのように位置づけているのか」という彼らの「日本語人生」を包括的に聞くことによって、多言語多文化化しており、共生社会が主張される今日の日本の問題に示唆することが多いことが分析により明らかになっていることが期待以上の成果であり、順調に研究が進んでいると判断している。 ただし、膨大なインタビュー量であり、その分析と考察に追われていることは計画より少々大変であるが、これらを研究成果として発信していくために予定通り進めていきたいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究を遂行していく中で、一人の中国朝鮮族学習者のライフヒストリーに特に注目し、密着調査をしていた。中国で生まれ、日本で留学をし、留学中に出会った日本人と結婚をし、現在は韓国で生活をしているその協力者の物語は 移動と越境の時代を象徴する問題が現在の日本において課題であることを実感した。日本で生まれてくる自身の子どもにどのように言語教育を行っていけばよいのか、仕事により移動してきた親が子どもの言語教育をどのように行っていけばよいかということであった。 単一言語・単一社会であった日本は移動と越境の時代であるといっても過言ではない。今日、移動の経験をする子どもや片親が日本人のハイブリット家庭で育つ子ども、または親の日本定住によりニューカマーとなった子どもなど多様な言語背景をもつ子どもとその家族が日本の社会で生きている。したがって、多様な言語背景を持つ子どもたちへの言語教育とその支援を考えざるを得ない。 多言語・多文化化している日本の言語教育の現状は、多様な言語背景を持っている人々の言語能力は重視されているとは言えない。特に、ニューカマーとなった子どもとその家族の問題は「見えないまま」であり、日本の言語教育において複言語教育の意義を唱えてもその人たちに届くものとは言えず、単一言語・単一社会の日本から多言語・多文化していく日本の言語教育の課題は重要な局面を迎えている。よって、複数の言語背景を持つとその家族のライフヒストリーに注目し、特に、ニューカマーとなった子どもへの支援のありかを考えていきたいと考える。 さらに、言語意識教育の構築が必要であると考える。多様な言語背景を持つ子どもがどのように複数の言語学習を進めてきて、移動と越境の時代であるといっても過言ではない今日の日本の言語教育において複言語意識の構築を通してその課題が見え、さらなる可能性につながると考える。
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次年度の研究費の使用計画 |
前半は、追跡を含むインタビュー調査と日本国内に在住している中国朝鮮族日本語学習者とのインタビュー調査を行う予定である<印刷費・消耗品費><協力者謝礼><調査・研究旅費>。「理論的サンプリング」を用い、データ分析と並立しながら分析に基づき、さらに必要と思われる協力者にインタビューを依頼する予定であるが、およそ10名を予定している。 後半は、平成24年度の成果を研究発表、および論文化を中心に行いたいと考える。文献調査、およびインタビュー調査の分析・考察を学会にて発表する<成果発表費><学会参加費>。(カナダ日本語教師会、韓国日語学会)が決まっており、学会誌に論文の投稿を予定している。 成果発表は以下のものを考えている。 ①複数言語能力を持つ中国朝鮮族日本語学習者の言語能力観、および日本語能力観の把握②越境とアイデンティティの問題③言語能力とアイデンティティ形成を支える「ことば」の意味④固定されたアイデンティティの問題とそれを乗り越え、多面的で流動的なアイデンティティの意義と可能性⑤複数言語能力を持つ日本語学習者に実態、言語の境界を乗り越えることの意味⑥日本語教育における複言語主義教育の課題への提言を論文化し、成果を公表する<成果発表費><学会参加費><論文投稿費>。
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