【研究目的】本研究は、多様な言語背景を持っている中国朝鮮族日本語学習者の言語生活と言語応用能力に関する言語意識より、言語とアイデンティティから流動的で多面的な観点を考察することで多言語化が進行する日本語学習者への支援のあり方を考えるきっかけになると同時に、日本語教育の文脈で複言語主義の課題と展開の基盤となるものである。 【研究方法】中国朝鮮族日本語学習者の背景を知るための文献調査を行った。また、中国東北地域に位置している、朝鮮族の民族地区である延辺朝鮮族自治州の首都延吉、および韓国ソウルとその周辺の大学で日本語を学びながら生活している中国朝鮮族の大学生18名に聞き取り調査、分析を行った。同時に東京都内の大学院、地方の大学で短期留学生として来日している中国朝鮮族日本語学習者の言語生活に関するライフヒストリー調査を続けた。 【研究成果】「母語」とは、本人が「母語」だと見なしている言語であり、複数でも可能であることが「母語をどのように捉えているか」という調査により明らかになった。つまり、自分がある言語をどのように意識し、考えるか、または自分の言語能力に対しての気づきによってそれぞれが自分のことばを育んでいくことが重要であることが示唆された。人は自分が持っている言語をどのように捉えるかによって自分の評価基準を上げると考えられると言えよう。それは理想とする自己を思い浮かべ、こうありたい自己像を確立していくことであり、日本語を通じた「能力」への可能性の発見でもあると主張する。さらに、本研究は、帰国子女と呼ばれる学習者、親の日本定住によりニューカマーとなった子ども、片親が日本人ではないハイブリットな家庭で育った人などさまざまな言語背景を持つ学習者が増加している今日の日本語教育において、「外国語のための/外国人のための日本語教育」から、「自分の日本語教育」へ移行していく意味が示唆された。
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