研究概要 |
本研究は,提示された音声インプットを繰り返すことによって,学習者が頭の中の音声知識データベースを質的に変化させたり,新たな音声言語情報を内在化させることに焦点を当てる。そして,どのような要因がそれらの変化や内在化に影響を与え,発音向上(英語の語強勢と弱母音)を促進させることができるかを明らかにすることが目的である。 平成24年度は下記の要因を検討した。(1)音声インプット情報(音声提示された英単語)の繰り返し回数,また,その繰り返しに伴う発音改善の持続性, (2) 音声インプット情報を繰り返す方法。 (1)では, 日本人英語学習者が英単語に接触する回数を変化(0,5,10回)させたところ,何も繰り返さなかったときと5回繰り返すことで英単語の強音節に対する弱音節の長さの割合において有意な差があり,5 回繰り返すことでその発音は英語母語話者に近づく傾向がみられた。このことは,学習者は繰り返し英語の発音を聞いて,それらのインプット中にどのような発音が含まれているかを把握し,瞬時にそれらの音韻表象を形成することができるようになったことを示唆している(潜在学習)。すなわち,数回の音声インプットの反復は,発音向上(語強勢)に有効である可能性が示された。一方で,5回と10回の間,また,1週後には繰り返しの効果がみられなかった。一定回数以上の繰り返し効果や持続性をさせるためには,単に音声の繰り返しだけでなく何らかの工夫が必要であるといえよう。 その工夫の1つである(2) 音声インプットの処理方法の要因については,現在実験データを収集し,分析中である。本実験では, (i) 単語の音節に注目をさせた処理vs. (ii) 音節に注目をさせない処理を実験参加者に呈示し,復唱してもらった。提示された音声インプット(英単語)の音節に注意することが発音(語強勢)の向上に影響するかどうかを明らかにする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では下記の要因を検討する実験を計画している。そのうち,(1)(3)については,実験済みで,(2)はデータを収集した。(2)については,平成24年内にデータ分析までしておきたかったが,他とのエフォートのバランスをうまくとることができず,予定通り遂行できなかった。 (1)プライム語への接触回数,(2)プライム語の処理方法,(3)プライミング効果の持続性,(4)プライム語の刺激の特徴,(5)実験対象者の年齢(小学生,大学生)やL2習熟度
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今後の研究の推進方策 |
計画当初に予定していた実験は次の通りである。(1)プライム語への接触回数,(2)プライム語の処理方法,(3)プライミング効果の持続性(4)プライム語の刺激の特徴,(5)実験対象者の年齢(小学生,大学生)やL2習熟度。そのうち,平成25年度前半までに,(2) プライム語の処理方法の要因を検討する実験データ分析を行う。 同時に (4)「プライム語の刺激の特徴」の要因を検討する実験の準備,データ収集を開始する。これにより,前期終了後にデータ分析を実施でき,よりスムーズな研究課題の遂行ができると考える。(4)の実験には検討する要因がいつくか含まれる(プロソディー情報をハミングvs.通常の復唱,遅い速度vs. 速い速度,文字提示ありvs.なしなど)。効率的に実験を進めるため,2要因を組み合わせて実施する予定である。 (5)実験対象者の年齢(小学生,大学生)やL2習熟度も検討要因としていたが,かわりに,(2)プライミング効果の持続性について,再実験を行う予定である。本要因は発音学習において,その学習の持続性はより重要であると考えるためである。本実験は,平成25年度中盤以降, (4)プライム語の刺激の特徴の要因を継続検討する際に実施する。
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