研究課題/領域番号 |
24720265
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 熊本県立大学 |
研究代表者 |
長嶺 寿宣 熊本県立大学, 文学部, 准教授 (20390544)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 不安 / 懸念 / 言語教師認知 / 英語教員養成課程 / 教師成長 / 英語教育 / 日本 |
研究概要 |
本研究の主たる目的は,英語教師になることに付随する不安・懸念の実体・実態,並びに教育実習体験との関連性,つまり教育実習中の不安・懸念の形成・変容過程を明らかにすることである。当該年度は,恣意的サンプリング(purposeful sampling)による被験者2名(英語教員養成課程に在籍する大学生2名)の選定と深層インタビュー(個別・集団)を実施した。収集した質的データは,随時テクスト化し分析を行った。また,質的研究手法,GTA(Grounded Theory Approach)の援用研究事例,教師成長・学習,英語教員養成課程の指導内容に関わる基礎的文献資料を揃えた。更に,英語教師・学習と言語教師認知に関連する研究の動向を把握するため,各種学術誌の研究論文等を調査した。当該年度に収集した質的データについては,GTAを採用したデータ分析の過程で,適宜,理論的サンプリング(theoretical sampling)と理論的比較を実施した。理論的サンプリングと理論的比較を行うことで,本研究の主たる被験者である大学生2名のデータに見出した特性(property)や次元(dimension)の数を効率よく増加させ,戦略的に情報に富むデータを収集し,多角的にデータ分析を進めることができる。したがって,大学生の被験者2名から収集したデータの理論的比較を行うために,理論的サンプリングにより選定した現職教員(2名)と大学院生(2名)の深層インタビューから質的データを入手し,全被験者のデータを比較検討した。この一連の作業によって,不安・懸念に関与している多種多様な因子とそれらの相互関係が明らかになったため,部分的ではあるが成果を纏め,大学英語教育学会(JACET)第51回国際大会,及び龍谷大学アフラシア多文化社会研究センター主催の第2回国際シンポジウムにおいて口頭による研究発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究は,全3段階(Phases 1,2,3)に分けることができる。第1段階(Phase 1;当該年度)では,恣意的サンプリングを援用し英語教員養成課程に在籍する大学生2名を選定し,個別・集団のインタビューを開始すると同時にGTAに基づいたデータ分析を実施する計画であった。第1段階の全ての作業は計画通り進められ,データ分析の進捗状況に関しては当初の計画以上の進展がみられる。なお,第2段階(Phase 2;平成25年度)では,継続して被験者(大学生2名)に対するインタビューを実施しデータ分析を行い,第3段階(Phase 3;平成26年度)でデータ分析を完了させ研究成果を纏めた上で中間報告や最終報告(国内外での口頭発表・論文発表)を実施する予定であった。しかし,第1段階にあたる当該年度は,前述の通り研究実施計画通りに諸作業が進み,特に,データ分析における理論的サンプリング(現職教員2名;大学院生2名の選定)と理論的比較(全被験者のデータ比較及び検討)が予想以上に効率よく進められたため,当該年度では計画していなかった中間報告を実施することができた。これはデータ収集と分析がスムーズに進んでおり,公表・報告に値する成果が得られていることを示唆している。
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今後の研究の推進方策 |
第1段階の被験者(英語教員養成課程に在籍する大学生2名)選定が済み,個別・集団によるインタビューが実施できており,データ収集と分析が効率よく進められていることを踏まえ,今後は,第1段階で得られているデータ分析結果(理論的サンプリング,及び理論的比較の結果を含む)を基に継続してデータ収集・分析を行う。また,データ収集・分析に関しては,GTAの手続きの最終段階にあたるカテゴリー関連図とストーリー・ラインの完成を目指す。平成25年度(第2段階)は,最終的に作成するカテゴリ-関連図とストーリー・ラインの質を向上させるべく,既に完了している理論的サンプリングと理論的比較の成果を生かす形で,緻密なコーディグの作業(open coding;切片化したデータの特性,次元,コード,カテゴリーを導き出す作業)を継続して行う。更に,多角的な複合調査(data triangulation)を行う必要があるため,主たる被験者(大学生2名)に関しては,彼らが執筆した論文やエッセイなどを補足データとして収集しデータ分析時に使用する。研究成果の中間発表は,平成24年度同様に,適宜公表・報告に値するデータ分析結果が得られた時点で実施することとし,年度末を待たずに公表を開始する。更に,研究実施計画に従い,社団法人大学英語教育学会(JACET)の言語教師認知研究会のメンバーとの連携に努め,前年度同様に本研究に関する助言を得ることとする。平成25年度は被験者(大学生2名)の教育実習体験期間を網羅する年度であり,本研究の中核をなす段階にあたる。教育実習中のデータ収集を計画的に進め,被験者の教育実習体験が英語教師になろうとすることに付随する不安・懸念とどのような関連性をもっているのか,その実体・実態を明らかにしうる理論の構築に努める。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究は,帰納的アプローチに基づいた質的事例研究である。定量分析・量的研究にみられるように,既存の仮説や理論を検証し,統計的な分析に基づいて一般化(generalization)の可能性を探る研究ではない。質的事例研究とは,特定の研究領域,研究対象,及び研究材料から,特殊化(particularization)を試み,創出した質的データ分析結果から示唆的事項を導き出す研究である。本研究では GTA を採用しており,最終的には研究対象である被験者の不安・懸念を説明しうる「理論」の構築が求められる。この研究デザインの性質上,研究者本人がデータ収集・分析のツールであり,研究者の知識・経験といった要素が,研究過程における「客観性」に影響を与えることは否めない。そこで,研究テーマに関連する国内外の文献調査や研究会議への出席を通して,英語教師成長・学習に関わる研究の動向や研究事例,更には質的研究手法(特に GTA の適用研究事例)に関する国内外での議論の動向に精通し,得られた知見を本研究のあらゆる側面で活かしていく必要がある。したがって,学術図書・研究論文集等の文献のうち新たに出版・公開されているものを適宜入手しつつ,次年度は特に国内外の学会・会議,ワークショップ,シンポジウム等で本研究に関わる最新の情報を収集する。また,積極的に国内外の学会・会議や学術誌等で本研究の成果発表を行う。以上を踏まえ,次年度の研究費の使途は,国内外の出張費(学会出席・研修・資料収集・中間発表等)を主とし,データ分析の効率化とテクスト化した大量の質的データの管理を一元化するために質的データ分析ソフトウェア(NVivo 10)を購入・導入することとする。その他,文房具等の消耗品費,通信費,資料複写代,印刷費等の支出に関しては,全て研究計画調書通りに行う予定である。
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