本研究は、前置詞句を含むガーデンパス(GP)文処理と先行文脈との関係について調査したものである。検討課題は以下の3点である。(1)日本人英語学習者は、前置詞句を含むGP文処理を先行文脈の情報を利用しつつ処理することが出来るのか(2)どのような種類の先行文脈が利用されやすいのか(3)ワーキングメモリ(WM)容量により、先行文脈の利用度合いが異なるのか。 日本人英語学習者61名を対象に、①前置詞句を含むGP文処理テスト ②リーディングスパンテスト(RST) ③先行文脈提示後、前置詞句を含むGP文処理テスト の3種類のテストを行った。① 前置詞句を含むGP文とは、The doctor examined the child / with a pen / instead of an expensive medical machine.(動詞句付加)The doctor examined the child with a pen instead of the child with a book.(名詞句付加)の2種類が1語ずつコンピュータ上に呈示された。② WM容量を測定するRSTでは、Nakanishi&Yokokawa(2011)のコンピュータ版RSTが用いられた。③では、動詞句/名詞句付加に強く/弱くバイアスのかかる文章が呈示された後に、GP文が1語ずつ呈示された。 RST成績によりWM群大群・小群に分け、①GP文単独呈示と③先行文脈呈示後のGP文処理成績(正答数、処理時間、解答時間)を比較したところ、WM容量に関わらず先行文脈を利用しGP文処理を行うことが示された。弱いバイアスの文脈情報でさえGP文処理時に利用されていた。日本人英語学習者にとって、先行文脈情報をGP文処理に統合することは処理コストになるのではなく、むしろ処理コストの低減になることが示唆された。
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