本研究は、文脈内で提示された単語の意味は単語そのものの意味を示すとは限らないことに注目し、文脈から構築される心的表象と語彙記憶保持・検索過程の関連を明らかにする事をお目的としている。 例えば I don’t like that fennec because it barked at me and bit me when I was a child. という文の場合、fennecはキツネの一種であるにも関わらずfennec = dog (犬) という表象が構築され、望まれる意味の獲得や意味アクセスが生じない。推論に関する研究では、熟達度の高い読み手ほど、文脈全体を包括する状況モデル (心的表象) を構築することが示されている。つまり、この例において、文脈全体からfennec を犬と記憶することは単語理解の観点では誤りであるが、文章理解の観点では誤りではない。十分な文章理解が、実際には明記されていない情報の記憶 (誤記憶) につながるのである。 最終年度には、これまでに収集した日本人英語学習者のデータを分析し、考察を行った。 データは(1)一文単位の情報を読んだ後に再認課外を行ったものと、(2)物語文を読んで再生課題を行ったものである。 その結果、抽象度の高い上位語が文脈内で提示された場合、一文全体で表わされている意味に合う情報がインプット時に活性化されるため、学習者は活性化された具体的な情報を誤って「あった」と判断してしまう可能性が示された。また、その傾向は、第一言語によるインプット条件で強くみられる。第二言語の場合、(a) word frequency (mirror) effectにより、同頻度に属する語の方が「あった」と誤認されやすかった、(b) 直後においても実際に提示されていた情報と、構築された表象 との区別を付けることが出来なかった、という2つの可能性が得られた。
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