研究実績の概要 |
平成26年度は、共通語としての英語(English as a lingua franca, 以下ELF)のコミュニケーションの談話・語用論的特徴の解明を進めた上で、三年間の研究成果を総括し、ELF使用者に求められるコミュニケーション能力について再考、英語教育への具体的示唆を探ることを目指した。目的達成の為、1. ELFのコミュニケーションの協力的・同意志向的傾向の更なる批判的検討と、2. ELF使用者の言語使用とアイデンティティの質的分析を計画していたが、目的達成には、1の重要度が高いと判断し、2は方法論を再検討し、次年度以降新たに調査することとした。以下、1の方法及び成果について具体的に報告する。 本研究データである英国の大学に在籍する留学生同士のカジュアルな会話中に自然発生した、第三者についての不平不満を述べているシークエンスを、会話分析の単一事例分析の手法 (Hutchby & Wooffitt, 2008)とBrown & Levinson (1987) のポライトネス理論を用いて精査した。その結果、会話者らは、多様な言語・非言語的資源を巧みに使用することで、対話者、不平不満の対象者、自らの社会的欲求であるフェイスを侵害しないように不平不満の正当性を訴えたり返答したりし、複雑且つダイナミックに自らの立場を交渉している過程が明らかになった。また、ポライトネス理論をこれまでに調査した発言権を取る発話の重なりと非同意の言語行動にも応用し、各言語行動の社会的動機に関する考察を深化した。本研究結果は、ELF使用者が、自分の第1言語で話しているのではないにも関わらず、会話中刻々と変化する交渉や相互交流の必要性に応じて、言語使用を適切に調整していることを示唆しており、このような会話の交渉能力は、グローバル人材に求められる英語コミュニケーション能力の中核的な要素を占めると考えられる。
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